アリストテレスの再編集

Greeks and Latins in Renaissance Italy: Studies on Humanism and Philosophy in the 15th Century (Variorum Collected Studies)

Greeks and Latins in Renaissance Italy: Studies on Humanism and Philosophy in the 15th Century (Variorum Collected Studies)

Natural Particulars: Nature and the Disciplines in Renaissance Europe (Dibner Institute Studies in the History of Science and Technology)

Natural Particulars: Nature and the Disciplines in Renaissance Europe (Dibner Institute Studies in the History of Science and Technology)

  • John Monfasani, "The Pseudo-Aristotelian Problemata and Aristotle's De animalibus in the Renaissance," in Natural Particulars, 205–47; repr. Greeks and Latins in Renaissance Italy, article VI.

 1400年代につくられたアリストテレスの翻訳の運命をたどった論文です。テオドル・ガザは1400年代の終わりごろに擬アリストテレスの『問題集』とアリストテレスの『動物論』(『動物誌』『動物部分論』『動物発生論』)のラテン語訳を完成させました。彼はその際にギリシャ語写本が伝えている巻の並べ方を変更したり、読みを大幅に変更したり、さらに時には写本にはまったくない補いを翻訳に付け加えました。彼によれば伝承されているアリストテレスの写本をそのまま翻訳することに意味はありません。第一に写本には伝承の過程で必然的に不正確な読みが混入します。第二にアリストテレスの場合、彼の著作をはじめて編集したテオスのアペリコンが行ったまずい作業のせいで、そもそも最初からテキストの配列から個々の語句にいたるまでアリストテレス本人の意図を反映させない形での伝承が行われてきました(なお、現在ではアリストテレスの著作を最初に編集したのはロドスのアンドロニコスだと考えられています)。したがってアリストテレスの翻訳とは伝えられたアリストテレスを再編集することとなります。

 このためガザの翻訳は文書の並べ替えや他の資料(例えばプリニウス)からの説明のつけくわえといった過激な変更を含むことになり、多くの人文主義者の批判の的となります。しかしそれと同時に写本の読みが意味をなさないと考えたときには、意味が通じるような修正をおこなったりテキストに欠損があると判断したことで、彼の翻訳は現在のアリストテレス校訂版にもしばしば引用されるほどの優れた修正提案を行っていることは事実です。この意味で、彼はラテン語訳という装いのもとで実はギリシア語テキストの校訂を行っていたと言えます。このことは、ガザの翻訳が『問題集』と『動物論』で他に並ぶものがない地位を獲得すると、今度は彼の翻訳がのちにつくられるギリシア語の校訂版自体に影響を与えていくという現象をもたらしました。校訂者たちはギリシア語で意味が通らないところを発見すると、ガザのラテン語訳を見て、それをもとにギリシア語本文を修正するということを行ったのです。

参考

 ここではとりあげることができなかった「民衆版」『問題集』については以下の吉本さんの記述をどうぞ。