デカルト哲学成功の要因 ディア『知識と経験と革命』第5章

知識と経験の革命―― 科学革命の現場で何が起こったか

知識と経験の革命―― 科学革命の現場で何が起こったか

  • ピーター・ディア『知識と経験と革命 科学革命の現場で何が起こったか』高橋憲一訳、みすず書房、2012年、143–178ページ。

 科学革命についての新しめの教科書からデカルトを扱った部分を読みました。デカルトの自然哲学のわかりやすい解説となっています。押さえておきたいポイントはデカルト哲学の成功要因を述べた部分です。まずデカルトの理論は包括的でした。彼はこれまでの哲学で論じられていたおおくの問題に自分なりの説明を与えています。そのため彼の哲学は伝統的なカリキュラムのもとで教育をうけたおおくの知識人にとって、自分たちがこれまで親しんできた問題を扱ったものとうつりました。説明のしかたはまったく異なっていましたが。

 もう一つは意外なことにデカルト哲学の仮説的な性格です。デカルトが知識を確実な基礎からくみあげようとしたことはよく知られています。しかし原理は確実でもその原理から具体的に現象を説明する段になると、彼はその説明のしかたを一つに限定することはできませんでした。どうしても複数のしかたで現象が説明可能であることを認めざるをえない。またデカルトの物質論が説明のために必要な粒子の形状を自由に導入できるような種類のものであったことも説明の自由度を増大させました。こうしてデカルト本人の意には反していたでしょうが、ボイルのように機械論的説明の仮説性を強調する論者に適合的な説明モデルを彼の哲学は提供したのです。