対立から融和へ ハース「後期古代哲学」

古代ギリシア・ローマの哲学―ケンブリッジ・コンパニオン

古代ギリシア・ローマの哲学―ケンブリッジ・コンパニオン

  • フランシス・A・J・ド・ハース「後期古代哲学」國方栄二訳、D・セドレー編著、内山勝利監訳『古代ギリシア・ローマの哲学 ケンブリッジ・コンパニオン』京都大学学術出版会、2009年、353–388ページ。

 前1世紀から640年のアラブ勢力によるアレクサンドリア制圧にいたるまでの哲学史の概説(の前半部)です。この時代にはヘレニズム時代に顕著であった哲学各派間の対立の様相が薄れ、むしろあらゆる哲学の伝統は単一の普遍的真理を探求する統一的な営みであるという考えが広まりました。エピクロス派と懐疑派が力をうしない、反面プラトン主義(古アカデメイア派)、アリストテレス主義、ストア派が融合していきます。アリストテレスプラトンの弟子であり、ストア派の開祖ゼノンがプラトンの後継者の一人から教えを受けていたことは、この統一的真理探究の基軸にプラトン主義が置かれることを促進しました。ここでプラトンが方々の国々に旅行していたという伝承が利用され、プラトン主義がピュタゴラス派やその他の宗教教義・実践と融合させられます。こうしてプロティノス以降普遍的真理の存在が信じられるようになると、その真理をかつての伝承に探し求めるというテキスト研究が行われるようになりました(ただしアフロディシアスのアレクサンドロスのように学派の収斂に頑強に抵抗した人物もいた)。カリキュラムは倫理学政治学、論理学、自然学、霊魂論、形而上学(神学)の順で進みます。そこではアリストテレスの(生物学をのぞく)諸著作がプラトン哲学への入門書として活用されました。