- 作者: アープレーイユス,呉茂一,国原吉之助
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2013/07/18
- メディア: 文庫
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- アープレーイユス『黄金の驢馬』呉茂一、国原吉之助訳、岩波文庫、2013年、7–128ページ。
なんだこれは。まごうかたなき娯楽小説ではないですか。だまされたと思って手にとってみてください。読みはじめたならばすぐに物語の力にとらえられて夢中になって読みすすめてしまうことになるでしょう。紀元前2世紀に書かれたものだとか、作者はプラトン主義者としても著名であるとか、そういう事情はすべて忘れて。
まずグロい。
といって、ソークラテースの首を外側に向けかえ、左のあぎとへ剣をずっぷりと柄までも突っ込むと、噴き出る血潮をていねいに小さい水袋をあてがって、ひとしずくも外へ洩れないように受けとりましたが、これを私は自分の眼で見ていたのです。…御親切なメロエーは、右の手を奥深く傷口から内臓までさし込み、私の哀れな部屋友達の心臓を探りまわして引きずりだした。(23ページ)
汚い。
…寝台を引きのけざまに、私の顔の上をまたいで腰をおろし、小水をしかけたので、けがらわしい小便の水で私はすっかりびしょ濡れになってしまいました。(23ページ)
エロい。
フォーティス君、なんてまあ君はみごとにまた華々しくそのお鍋をお尻もろとも揺すぶりまわすのかね。なんてまあ蜜みたいに甘そうななめ物を作ってるんだ。まったくそのお鍋へ指をつっこませてもらえる人は果報な仕合わせ者だね。(54ページ)
頻出する魔術のうちにはネクロマンシーもございます。
こう頼み込まれて、予言者は一つの小さな薬草をとって死骸の口にあてがい、もう一つをその胸に置きました。それから…。するとそのうち胸がふくれてもちあがる、今度は脈が生き生きと打ちめぐり出す、見る見る死んだむくろに生気がみちわたってくる。とうとう屍は起き上がって…。(83ページ)
これらの要素がたくみに組みあわされ織りなされる挿話の多くがなによりも予想外の結末に満ちていることがすごい。はられた伏線がみごとに回収されるところなど、近代の推理小説を読んでいるかのような爽快感があります。その回収のされかたも笑えるものであったり、おっかないものであったりするのです。いやこれはもう極上の娯楽小説です。さあページをめくってください。