ルネサンス魔術の脱現代化 Zambelli, "Must We Really Re-appropriate Magic?"

  • Paola Zambelli, "Must We Really Re-appropriate Magic?" in White Magic, Black Magic in the European Renaissance (Leiden: Brill, 2007), 1–10.

 ルネサンスの魔術、占星術研究で重要な成果をあげている著者の論文集からイントロを読む。長きにわたって魔術は非科学的で迷信めいたものとして真摯な歴史研究の対象となってこなかった。それがここ数十年、魔術と科学革命の関係が集中的な考察の対象となり、迷信としての魔術という認識は姿を消した。しかしそれにより魔術を現代の読者に受け入れやすいものとするために、ここで扱う魔術は自然の原因をもちいるだけの「自然魔術」なのだということが歴史家によって強調されるようになった。あるいはフィチーノやピコによる自分たちの魔術は自然魔術なのだという言明が額面通り受けとられるようになった。しかしピコはともかくフィチーノについて、ほんとうに自然魔術にしか関心がなかったと言えるのか。またその後、魔術書を著した者たちが出版を控えたことはどう説明するのか。さらに事情を複雑化するのは、自然魔術でないとされる魔術が前提とする天使やダイモン・悪魔の存在は、それを否定すると教会から罰せられる危険があるものであったことだ。教会の儀式はそれらの存在を前提としていた。ポンポナッツィが自然現象をアリストテレスの枠組みから自然主義的に説明しつくすような論考の出版をためらったのはそのためである。魔術を歴史研究の対象からしりぞけることも、それを現代に都合よく解釈し自然魔術に還元することもなく、むしろ当時の知のセンターからは外れたものたちによって魔術がどうとらえられていたかを正確に把握する必要がある。