モミリアーノの史学史 Grafton, "Momigliano's Method and the Warburg Institute"

Worlds Made by Words: Scholarship and Community in the Modern West

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  • Anthony Grafton, "Momigliano's Method and the Warburg Institute: Studies in His Middle Year," in Grafton, Worlds Made by Words: Scholarship and Community in the Modern West (Cambridge, MA: Harvard University Press, 2009), 231-54.

 モミリアーノは20世紀を代表する古代史研究者としてだけではなく、初期近代から19世紀にいたるまでの歴史研究の伝統を調査した史学史家としても知られている。この後者の研究プロジェクトがいかに形づくられたかを論じた論考である。といっても決定的な回答が与えられているわけではなく、いくつかのヒントが提示されているにとどまっている。まずモミリアーノは史学史の研究をあくまで古代史家として、古代史家にむけて行っていた。彼の診断によれば、いまや古代史は歴史学のうちで周辺的な地位に転落している。これにかつての活力をとり戻させるには、古代について考察することで、歴史学全体について考えていたかつての歴史家たちと対話するしかない。そこからモミリアーノの史学史はかつての偉大な研究者に焦点を当てたものとなった(特に初期)。そこにたとえば教育制度の歴史への関心は見られない。

 モミリアーノは1938年よりイタリアを追われ、イギリスに居を構えていた。だが彼はイギリスの史学史の研究伝統には冷淡であった。それはブリテン諸島と大陸を切り離しがちであったし、史料のテクニカルな細部に入りこんでいこうとしていなかったからだ。このなかでモミリアーノも引かれ、またモミリアーノの仕事を評価したのが、ウォーバーグ研究所の人々であった。古代の伝統の研究をアジェンダとして掲げ、大陸と深いつながりを持ち、しかも19世紀から20世紀にかけてのドイツ文献学の成果を利用する同研究所は、モミリアーノの活動の中心となっていく。そこでのレクチャーを中心に進めるようになったことにより、彼の論述のスタイルも変化した。体系的というより、具体的で吸引力があり、聞き手からの反応をよりうながすようなスタイルにである。