社団を編成する政治権力 二宮「フランス絶対王政の統治構造」

ソシアビリテと権力の社会史 (二宮宏之著作集 第3巻)

ソシアビリテと権力の社会史 (二宮宏之著作集 第3巻)

  • 二宮宏之「フランス絶対王政の統治構造」吉岡昭彦、成瀬治編『近代国家形成の諸問題』木鐸社、1979年、183-233ページ(『二宮宏之著作集 第3巻 ソシアビリテと権力の社会史』岩波書店、2011年、133-176ページに収録)。

 フランス絶対王政理解のための新しい視角を打ちだした重要な論文である。キーワードは社会的結合関係である。

 絶対王政の古典的イメージとは次のようなものである。王はあらゆる法にしばられない。王は官僚機構と常備軍を利用して、王国をあますところなく統治する。しかしこのような絶対王政イメージは近年の研究により掘りくずされはじめている。まずフランス王国の領域は必ずしも判然としなかった。その領域は封建法に由来する相続法にもとづいて漸進的に拡張されていたため、領域のすべてを統べる一円的原理があったわけではなかった。よって領域によって異なる法律が適用されていた。官僚制にしても、その身分は売買や相続が可能であり、門閥や地方ごとの利害関係と深く絡み合っていた。租税制度には(というか租税制度にこそ)一貫性や平等性はみられなかった。

 よってアンシャンレジームの政治社会を分析するには、国家権力による一元的支配という視角は充分でない。むしろ王権は複数性を抱え込んだ伝統的社会構造のあり方にあわせて、権力を浸透させようとしていたと考えねばならない。政治権力はもともと社会に自生的に存在していた結合関係を把握し、それに法的な地位を付与することで、支配秩序を形成していったと考えられる。たとえば空間的には、家、村域(街区)、領収所領(市域)、地域、地方と結合関係は拡張していく。すると政治権力はこのそれぞれに区域としての名称をあたえ把握していく。また機能的結合関係としては、職能により分かれた集団に各種特権を与えていく。

 このようにして空間的、または機能的に把握され、地位を与えられた集団を社団と呼ぶならば、絶対王権はこれらの社団が伝統的にもっていた自由を認めざるを得ないと同時に、その自由を特権という形で与えることで、自らのもとに支配秩序を築いていたといえる。

 だが社団編成による統治は社団が元来自生的なものであるがゆえに、そこから来る流動性にさらされているという弱点を抱えていた。社団に内部で均質性が失われたり、社団間の序列が変化したり、伝統的に社団に回収できない集団が現れるにいたって、アンシャンレジームの支配秩序は動揺をはじめる。

 こうして揺らぎはじめた中間団体を通しての支配を撤廃することが革命であった。特権にもとづく領域的結合も身分的結合も否定される。では新たな結合の原理はなにか。「人は特権によって自由ではなく、すべての人間に属する権利である市民としての権利によって自由なのだ」(『第三身分とは何ぞや?』)。こうしてひとりひとりの市民が結合して成立する国家という理念が現れる。これが近代国家体制である。