理想と現実のあいだのスピノザ Garber, "Superheroes in the History of Philosophy"

 デラ・ロッカのスピノザ論へのガーバーの反論である。デラ・ロッカによると、スピノザ哲学の最終目標は、世界をあますことなく理解可能にすることである。理解可能とはどういうことか。それは世界のすべてが充足理由律を満たすということである。よって世界のすべては説明が可能である。説明できないことはなにもない。

 ガーバーは反論する。なるほどたしかにスピノザにとって世界の大部分は理解可能である。たとえばあるものが存在することと、存在しないことのそれぞれには理由がなければならない。また有限の事物は有限の原因をもつ。最後に自然のうちには侵すことのできない普遍的な法則がなければならない。しかしだからといってすべてが理解可能であるわけではない。説明できない主要な事柄として、神がどうしてこのようであり別様であるのかということの理由は人間にはわからない。スピノザにとって神は世界なので、要するに世界がなぜこのようであり別の仕方であるのではないのかはわからないということになる。デラ・ロッカが主張するほどに強い世界の理解可能性をスピノザは唱えていないというわけだ。

 最後に世界を理解可能性をスピノザ哲学の唯一の目標としてしまってよいのだろうか。彼は私たちがいかに幸福に生きられるかを真剣に考えていた。むしろこの目標を達成するために世界は理解可能であったと考えられるのではないだろうか。いずれにせよ、スピノザのうちに単一の目標を認め、それが他の議論を駆動していると考えることはできない。デラ・ロッカの極端に純化されたスピノザは歴史的スピノザからは遠い。スーパー・ヒーローは現実にはいない。