思惟属性における個体 Della Rocca, Representation and the Mind-Body Problem in Spinoza

Representation and the Mind-Body Problem in Spinoza

Representation and the Mind-Body Problem in Spinoza

  • Michael Della Rocca, Representation and the Mind-Body Problem in Spinoza (New York: Oxford University Press, 1996), 28–38.

 スピノザが思惟属性での個体をどう理解していたかを考察する箇所を読む。『エチカ』での個体の定義は、延長属性での個体についてのものである。思惟属性での個体をどう理解すべきかは明確には書かれていない。そこで延長属性での定義から、思惟属性での定義を推測せねばならない。
 延長属性での個体とは、その構成諸物体が、それらが共有している運動と静止の割合を保存しようとする傾向性をもつような物体のことである。これを並行論の前提から思惟属性にあてはめると次のようになる。思惟属性での個体とは、それを構成する諸観念が、それらが共有しているなんらかの特徴を保存しよとする傾向性をもつような精神のことである。この特徴とはなにか。それはコナートゥスの定義から「我々の身体の存在の肯定」(3p10d)だと推測される。よって思惟属性のもとでの個体とは、「それを構成する諸観念が、それらの総体がもつ身体の存在の肯定という性質を保存しよとする傾向性をもつような、精神のことである」となる。この結論はあいまいである。しかしこれはスピノザの議論そのものに説明が欠けているところからくる。運動と静止の割合や身体の存在の肯定というような鍵となる概念について、彼は十分な説明を与えていないからだ。