古代における水蒸気について

 ラテン語徒然の方に書いたコメントをこちらにも転載しておきます。誰か詳しい人がいれば・・・。

>この独特の因果関係は,古代哲学ならではという感じですね.

 この点についてちょっと調べてきました。詩的とはかけはなれた散文的な文章ばかり引用していますが。。。

 「星は蒸発してくる水で燃えている」という考えについては、ピーズ(Pease)が『神々の本性について』 に付した注釈書の中で述べていました。2巻の pp. 635-7 です。それはもううんざりするほどたくさんパラレルが引いてあるので参考にしてください。

 とりあえずマクロビウス*1がこう言っているようです。

Ideo enim, sicut et Posidonius et Cleanthes adfirmant, solis meatus a plaga quae usta dicitur non recedit, quia sub ipsa currit oceanus qui terram et ambit et diuidit, omnium autem physicorum adsertione constat calorem humore nutriri.

「ポシドニウスとクレアンテースが言っているように、太陽の運行経路は乾燥しているといわれる地域から離れていくことはない。なぜならそのような地域の下には大洋が走っているからである。この大洋は陸地を囲み、分断している。そしてすべての自然学者が一致しているところでは、太陽の熱というのは湿気によって養われているのである。

 真ん中の部分はよく分かりませんけど、とりあえず太陽の熱と水分の関係が書いてあります。

 さらにアリストテレス(ぶるぶる)が『気象論』の第2巻第2章で、「それゆえ太陽が水蒸気によって養われると信じた昔の人々は、みな笑うべき誤りを犯していたのである。(中略)天界において水蒸気によって養われるものは存在しない」と言っています。
 というわけでどうやらわれらがvapor哲学はかなり根が深いようです。アリストテレスが「昔の人々」といっているんだから、ソクラテス以前ですね。

 いや、調子にのって書きすぎました。とにかく上のピーズの注釈書と『気象論』の研究書あたりから調べはじめると面白いことが出てくるかもしれませんね。
 いつかこれで誰か論文でも書いてくれれば・・・。「古代哲学・文学における水蒸気の役割について」とか。

*1:5世紀はじめごろに生きた哲学者・文学者で、作品としては『サトゥルナリア』、『キケロー「スキピオの夢」への注解』が残る。断片的に『ギリシア語とラテン語の相違と類似について』という文法に関する論考も残る。『サトゥルナリア』はプラトンの対話篇に範を取った作品で、サトゥルヌス祭の前夜から続く三日のうちに行われた対話の記録として書かれている。『「スキピオの夢」注解』は新プラトン主義の立場から書かれた注釈書。マクロビウスとキケローについては高田康成 『キケロー』 岩波新書, 岩波書店, 1999, pp. 139-144 あたりがやや詳しく扱っている。