Voelkel, Composition

 今日は知人が突如ダウンしてしまったので、お昼からは研究室からも自宅からも離れていました。移動中とかあいていた時間とかに読んだのがこれです。非常に優れた研究。

The Composition of Kepler's Astronomia Nova

The Composition of Kepler's Astronomia Nova

 ケプラーの『新天文学』は普通の科学書と異なり、最終的には間違いと判明した試みの過程を含めて、最終的な結論に著者が至るまでの思索の歩みが大量に書いてあります。いや、書いてあるように一見思えます。しかし実は同書に書かれていることは、ケプラーが実際に惑星の運行についての理論を構築した過程ではありません。ではケプラーは自分が実際に行ったわけでもないのに、どうしていろいろと回りくどい過程を書きとめたのか。それは読み手とその読み手から来ると予想された反論に対処するためであったとVoelkelは考えます。このことを論証するために、特にケプラーに向けて友人があてた書簡が分析されます。面白いのがケプラーが書いた書簡ではなくて、ケプラーにあてて書かれた書簡が取り上げられることです。そうすることによって、書簡で友人たちがケプラーに提起した疑問点や批判点を解消するような形で、『新天文学』が構成されていることがわかります。

 こうやって書簡に注目することで、当時の天文学者集団の実態を明らかにしようとする研究はこれから増えていくのではないでしょうか。ティコに関しても最近同じ試みがありました。理論の再構成を長らく研究の主題としてきた天文学史も、著名な人物の全集の整備が進んでようやく新たな段階に入り始めたのだと思います。