世界霊魂研究その35 カルダーノ、能動知性、世界霊魂

 カルダーノは世界霊魂が一つしかないということを正当化するために、テオフラストス、テミスティオス、アヴェロエスの名前を挙げています。しかし実際にこの3人のアリストテレス主義者の著作中で彼が念頭においている箇所を調べると、そこで主張されているのは能動知性の単一性であり、世界霊魂の単一性ではありません。カルダーノは元の資料に対して、そこには本来書かれていないことを読み込んでいるわけです。

 この読み込みは既存の哲学学説をいかにカルダーノが功名に自らの哲学学説に合わせて改変して利用しているかを示しています。『ケンブリッジ版中世哲学史』によると、能動知性が人間から離れてしかも一つしかないという学説は古代末期のギリシアから、アラビア、ユダヤにいたるまで一般的に受け入れられていたものです。スコラ哲学では概してこの見解は否定されていたのですけど、カルダーノはこれを利用します。しかし彼はその際に能動知性についての学説を世界霊魂についての学説として読みかえました。これは彼の哲学では、すべての現象は神の力の発現であるため、知性と霊魂のあいだに本質的な区別がつかないという前提があってはじめて可能になったものです。このようにカルダーノの新しい哲学は、既存の哲学学説の新しい読みを可能にしているのです。

The Cambridge History of Medieval Philosophy 2 Volume Boxed Set

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