文献学という安息

Joseph Scaliger: A Study in the History of Classical Scholarship (Oxford-Warburg Studies)

Joseph Scaliger: A Study in the History of Classical Scholarship (Oxford-Warburg Studies)

  • Anthony Grafton, Joseph Scaliger: A Study in the History of Classical Scholarship, 2: Historical Chronology (Oxford: Clarendon Press, 1993), 343–57.

 グラフトンの代表作からです。ヨセフ・スカリゲルは『時の修正について De emendatione temporum』で時間の本性について議論することはしないと宣言しています。この沈黙は彼の父のユリウス・カエサルが論敵の時間理論に長々と反論を加えていることからすると奇妙なことに思えます。また同書においてヨセフは過去の歴史に何らかのパターンを読み取ることを極力避けています。古代以来、人間の6000年の歴史は神の創造の6日間に対応するとか主張されたり、ディアスポラユダヤ人たちによって権威ある文書の解釈から世界の終末が近いという証拠を探そうという試みがなされたりしていました。これら解釈はしばしば木星土星の合に人間の歴史の転換点が認められるとする占星術の理論によって補完されていました。しかしヨセフはこのような伝統に背を向け、暦を象徴としてではなくあくまで単なる日付の集積として扱う態度を貫きました。個人的な論争と激しい宗派対立のなかで、ヨセフは彼の幾人かの友人と同じく、情報に意味を持たせることなくただそれを正確に集めることに努め、それにより理性のみが支配する議論の場を生み出して、現実のカオスからの安息の場としようとしていたのかもしれません。

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