ボイルの粒子論と生命論

生命と物質 上―生理学思想の歴史 (クリテリオン叢書)

生命と物質 上―生理学思想の歴史 (クリテリオン叢書)

  • T. S. ホール『生命と物質:生理学思想の歴史』長野敬訳、全2巻、平凡社、1990年、上巻、265–279頁。

 生命論をあつかった古典から、ロバート・ボイルに関する部分を読みました。ボイルの物質理論は粒子に基礎を置くものでした。伝統的四元素もパラケルススの三原基も実際には最小の粒子の混合物であり、このような混合物は粒子の配列の変化によって相互に転化すると彼は考えました。混合物間の可変性を高く見積もり過ぎたことが、彼ののちにただちに粒子的化学が発展しなかったことを説明します。必要であったのは数限りなくある混合物ではなくて分析の基本となる少数の元素でした。

 ボイルは生命現象も極力粒子の作用から説明しようとし、たとえ霊魂を認める必要があるとしてもその作用は物質的なものでなくてはならないと唱えました。身体のある部分が全体のなかでしかるべき役割を果たしていることを、アリストテレス主義の伝統では主導的な形相(特殊形相と呼ばれました)が、部分を統括する従属形相をしたがえるとみなして説明していました。対してボイルは個々の部分はそれが別の部分とつながっていることから独立の時とは異なる作用をすることがあるだけだと考えました。「われわれは、特殊な形相とか霊魂がなくても、自然の作用因の容易な会合の助けを借りて、身体のもっと着実な修正によって十分に行いうる事柄を、形相や霊魂のせいにしてはいないだろうか」。

 彼は真空を作り出すことのできる空気ポンプをつかって燃焼と呼吸について詳しく調べるということを行いました。彼は最終的には燃焼のために必要な物質と生命維持のために必要な物質は同じなのではないかと推測するにいたりました。「新鮮な空気を動物の生命にとって必要なものとしているのは、…何か、こう呼んでよければ生命の物質というものがあるからであって、これは揮発性の硝石か、あるいは星界また地上性の未だ不明の物質だが、私が最近他の炎の維持に必要不可欠であると知ったものと類似のものでもないとも限らず、これが空中にひろく分散しているからではないかということを、大いに疑わせるものである」。

 生理学の分野でのボイルの貢献はなにか新たな理論を構築するというよりも、粒子論の立場から既存の説明に疑念を抱きそれを破壊するという性質を持つものでした。しかしそのような懐疑がこれ以後の自然哲学の再構成にとって不可欠であったと著者はしています。