シンポジウム「西欧ルネサンスの世界性と日本におけるキリシタンの世紀」参加記

 学習院女子大学で開催された学術会議に参加してきました。科研費プロジェクト「西欧ルネサンスの世界性と日本におけるキリシタンの世紀」(代表者:根占献一)による大規模企画の第一弾です。各人の発表動画はすでに公開されていますので、詳しい内容を知りたい方はそちらをご覧ください。

 全体を通じて感じられたのは、思想の歴史を考究するという営みがここでたしかに実践されているということでした。思想がたくされた著作を読むときに、そこにいかなることが書かれているかをまず精確に認識する必要があります。しかしそれだけでなく、その認識を歴史的なものにしなければ思想の歴史にはならない。認識された思想を、その思想そのものとは違うなにかと何らかの形で結び付けなければならない。そうすることではじめて、ともすれば抽象的な思想を、特定の時点の特定の人物の営みの結果として理解することができるわけです。そのような方法論が自覚的に適用されていることは、メランヒトンアリストテレス解釈の変化に農民戦争の経験という引き金を見る、フランシス・ベーコンの神話解釈のうちに学問の進歩の神による是認という前提を見てとる、イエズス会宣教師の宇宙論を宣教のための霊的道具として理解する、といった各発表の立論に明瞭に見てとることができました。しかもそこで呼び出される歴史との接点は、政治情勢であり、学問改変のプログラムであり、アジアへの布教活動でありという多種多様なものとなっています。こうして思想を複雑な歴史的事象のたしかな一部ととらえ、それがどういう一部であるかを解明することに責任をもつ歴史家がいる。これが自明視され実践される空間が当然のものとなるほどに、主催者のヒロ・ヒライがいうインテレクチュアル・ヒストリーは深く根付きはじめたのかもしれません。

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