A級戦犯

 靖国の問題を論じるとかなりの確率でここに行き着きます。中国や韓国が首相の参拝に抗議している最大の理由は、靖国神社東条英機元首相らが英霊として顕彰されているからです。日本以外の国家にとっては、彼らはアジア諸国を中心に多くの犠牲を生んだ戦争を指導した責任者であり、彼らの責任を追求することに議論の余地はありません。
 ただ日本で議論をここから出発させると、必然的に東京裁判の正当性と言う問題が出てきます。たとえ東条英機以下の人物に戦争の責任があるとしても、その責任の所在の意味、その範囲につき東京裁判の結果を受け入れるのか、という疑問です。
 これに関しては保守的な立場の人たちは戦勝国の一方的な裁きであると主張することになりますし、リベラルといわれている人にしても「昭和天皇の責任が問われなかったような(というか裁判にかけられることすらなかったような)裁判に全面的な正当性を認めることができるのか」と問われたならば、答えに窮してしまうでしょう。
 そこでリベラルな人たちは「日本政府も、東京裁判を受け入れている」と主張し、そこからサンフランシスコ講和条約の意義、裁判ではなく受け入れたのは諸判決であるという議論などが出てきます。
 このあたりの事情を解きほぐして問題を整理するだけでも大変なのに、そこに中国の台頭に伴って日本側に生じている中国に対する(嫉妬のようなものを含んだ)感情の問題が入ってきて収拾がつきません。もちろん、これ以外にも山のように複雑な要素が含まれています。
 一貫して靖国神社に自身の信念として参拝していない人が総理になれば問題はひとまず収集します。ただそうなったとしても問題を引き起こす潜在的な土壌には何の変化もなく、もし再び参拝を行う人が総理になれば問題が再発するだけです。つまりアジア諸国との関係は、時の総理の靖国観に左右される不安定なものであり続けます。
 へんてこな問題の解決方法としては、総理大臣が目に余るような職務行為としての参拝を行い、それが最高裁違憲判決を受けることでしょうか。