カルダーノ、『<一>について』

 取り寄せて読みました。労作。いまでこそスペイン語訳があるとはいえ、1995年の時点では現代語訳はなかったはずです。にもかかわらず私が原文と対照した限りでは、非常に正確な訳業がなされています。

 こういう水準の仕事が埋もれてしまうのはあまりにもったいない。たとえば山本義隆、『磁力の重力の歴史』、543-550頁ではカルダーノが扱われています。そこでは琥珀現象の説明のためにカルダーノが類似性の原理を持ち出していないことが第一に強調されています。そして第二に彼が琥珀現象と磁気現象の相違点を挙げたことが重要だとされています。

 しかしここでもし著者が「<一>について」を読んでいたならば、そこでは磁石が鉄を引き寄せることの「一般的な原因は、類似性である」と書かれていることに気がついていたでしょう。ここからカルダーノ琥珀現象には自然的な原因を与える一方で、磁石の起こす現象を共感と反感の原理を用いて説明していたことが分かったことでしょう。

 実はこの本が出た時にはすでにbibliotheca hermeticaが存在していたので、「カルダーノ」で一度でも検索していれば、「カルダーノ研究の基礎」のページにたどり着き、そこからこの翻訳に行き当たったはずです。しかしあとがきを見ると、インターネットを利用せずに書いたあとあって、少なくともこの点では利用しなかったことが裏目に出たなという感じです。

 が、それと同時にこの『ルネサンス研究』という雑誌はもう少しその存在をアピールすることが必要だったのではないかと思います(この点は、bibliotheca hermeticaの2006年6月18日づけの日記に書かれています)。せめて既刊の内容を紹介するページをつくりたいところ。