アヴィセンナの生成論

 ここ数日は生成についてアヴィセンナが論じたことを調べていました。彼の主著である『治癒』のラテン語校訂版はまだ動物論の部分をカバーしていないため、読みにくい字体の古い版を手に取らなければなりませんし、またそもそもアヴィセンナラテン語訳は非常に難解なため、まずは彼の学説をしっかりと紹介していると思われるアエギディウス・ロマヌスの『子宮における人間の体の形成について』と、その研究書である『アエギディウス・ロマヌスと中世の妊娠の理論』 M. Anthony Hewson, Giles of Rome and the Medieval Theory of Conception (London: Athlone Press, 1975) を調べました。用いた校訂版は以下のものです。

  • Romana Martorelli Vico, ed., De formatione humani corporis in utero, Aegidii Romani opera omnia, II.13 (Florence: Sismel, 2008).

 この一連の作業によりアヴィセンナについてのいろいろな豆知識は得ることができました。しかし発生のプロセスをアリストテレス主義の枠組みでどう説明するか。その説明は彼の新プラトン主義的な世界観とどう接合されているか。これらの点についての答えはまだ得られていません。

アヴィセンナ生成論に関する豆知識

 アヴィセンナによれば射精の遅い男性の方が子供をつくりやすい。というのも、女性は生来冷えているため射精に至るのが遅いため、同時に射精して受精をなしとげるには男性の射精は遅いほうがよいから。

 アヴィセンナによれば、性交の時には子宮は湿っていないといけない。この湿り気は美味しい物を食べたときに出る唾液と同じようなものである。

 アヴィセンナによれば、子宮の中では男性のほうが女性より早く形成される。しかし一度生まれると女性のほうが男性よりはやく成長する。

 アヴィセンナによれば、小麦粉と水などを混ぜてこねた塊がまずオーブンの暖かさによって周りに皮を得るように、子宮の暖かさが胎児の外皮を形成する。

 アヴィセンナによれば、女性の月経血はその純度に応じて三種類に分かれる。一番きれいな部分は胎児の素材として使われる。次にきれいな部分は母親の母乳となる。残りの不純部分は余剰として子宮内に蓄えられ、出産時に放出される。

 アヴィセンナによれば、他の条件が同じである場合、子宮の右側に形成された胎児は男性に、左側に形成された胎児は女性となる。というのも人間は右側のほうが左側よりも熱く、そのため本性的に女性よりも熱い男性は右側で形成されると考える必要があるから。ただし男性の睾丸の左側で形成された相対的に冷たい精液が、女性の子宮の右側という相対的に熱い箇所に胎児を形成する場合、また睾丸右側からくる熱い精液が冷たい子宮左側に胎児を形成する場合には注意が必要である。