付帯性の独立 Des Chene, Physiologia, ch. 5, sec. 3

Physiologia: Natural Philosophy in Late Aristotelian and Cartesian Thought

Physiologia: Natural Philosophy in Late Aristotelian and Cartesian Thought

  • Dennis Des Chene, Physiologia: Natural Philosophy in Late Aristotelian and Cartesian Thought (Ithaca: Cornell University Press, 1996), 138–57.

 博士論文の生成について扱う章を執筆するために必要な二次文献を消化しています。まずは初期近代のアリストテレス主義を知る上での基本中の基本書である、Dennis Des Cheneの著作に当たりました。読んだのは生成が生じるために質料が満たすべき条件について書かれてた5章3節(138-57ページ)です。

 議論として面白かったのは、質料に内在する付帯性という考え方の部分。トマス理論に厳密にしたがうと、付帯性というのはすべて実体形相の存在を前提にしているので、付帯性自体が独立した存在として捉えられる可能性はほぼありません。しかしこの考えでは説明できないまずいことが経験上出てきます。たとえば死んだばかりの人間はまだ温かい。ではこの熱はどこからくるのか?もちろんすでにその人は死んでいるんだから、人間の実体形相に付随する付帯性にその原因を求めることはできません。では死体の実体形相に求めることはできるかというと、死体は本性的に冷たいものなのでこれまたできない。この問題を解決するためには、熱が人間の生き死ににかかわらず身体という質料に付帯性として宿っていると考えざるをえないのではないか?このように付帯性が実体形相からの独立性を高めていくということが、初期近代のアリストテレス主義に認められると論じられています。

 ただ本当に知りたかったことについてはちゃんとした回答を得られませんでした。何かが生じるときにその何かの実体形相はどこから来るのか?この問題は「質料の可能帯からの形相の引き出し(eductio)」という一般的な定式をどう解釈するかということにかかっています。この問題に対して、この本が主題としている哲学者たちが最終的にどういう回答を与えたかということについては明確な記述を見つけることができませんでした。「形相の引き出し」の問題について参考文献としてこの本を挙げている研究もありますけど、ちょっとまだ補いが必要ではないかと思いました。