4つの日本医学史研究 Wellcome Historyから

  • 「日本における医学史:近年の展開」Akihito Suzuki, ed., "Medical History in Japan: Recent Developments," Wellcome History 48 (2011): 7–12.

 研究室にWellcome Historyの最新号が置いてあり、そこで日本の医学史についての新しい研究が4つ紹介されていました。

  • Daisuke Okumura, "Portrait of a Scientific Shintoist: Akashi Hiroakira (1839–1910)," 8.
  • Rie Hogetsu, "Medicalising the Mouth: The Professional Oral Care Structure in Postwar Japan," 9–10.
  • Masahiro Sato, "Traumatic Neurosis in Modern Japan," 10–11,
  • Tomohisa Sumida, "Public Health Experts on Yokkaichi Asthma," 11–12.

 Okumuraは19世紀後半から20世紀初頭にかけて京都で活動した医師が、正電気と負電気という西洋由来のアイディアを、神道の宇宙観といかに接合させていったかを検討することから、東京大学医学部の活動に象徴されるドイツ医学の「輸入」という事象に対して、京都における外来の学問と土着の世界観のあいだの交渉という側面の重要性をとなえています。Hogetsuは20世紀の日本での歯(と口関連)の治療史を検証することで、口の治療が歯科医以外のさまざまな医療従事者の関心事となっていくことを明らかにしています。この複雑にからみあった利害関係の力学を解明することが、口が医療の対象となっていく過程を解明するには不可欠です。Satoの論考は、日本において神経症が治療の対象とされ、その後その対象から外されていく過程を検討しています。なぜ戦後日本において神経症への関心が阪神大震災まで高まらなかったのかを考えることは、日本の社会の重要な一側面を明らかにすることが期待されます。Sumidaは四日市ぜんそくの調査委員会に公衆衛生の専門家が加わっていることに着目し、彼らのこれまでの研究歴、人脈、勤務地といった諸々の要因が彼らをして「大気汚染の専門家」になることを可能ならしめたことを明らかにしています。

 どの研究も日本という地域の特定の話題を扱っていながら、それをより一般的な分析枠組みのなかに落としこむことで研究の意味を浮き上がらせることを志向しています。もうすぐウェブで閲覧可能になると思うので関心のある方はぜひご一読を。