アヴェロエスにおけるミニマ  Glasner, Averroes' Physics

Averroes' Physics: A Turning Point in Medieval natural Philosophy

Averroes' Physics: A Turning Point in Medieval natural Philosophy

  • アヴェロエスの自然学:中世自然哲学の転回点』Ruth Glasner, Averroes' Physics: A Turning Point in Medieval Natural Philosophy (Oxford: Oxford University Press, 2009), 141–59.

 アヴェロエスの自然学についてのはじめての本格的モノグラフです。自然の最小単位(ミニマ・ナトゥラリア)に関する部分を読みました。焦点となっているのは、アリストテレスが『自然学』の第7巻冒頭で言っている「それ自体として動くところのもの」の解釈です。8巻4章の記述によれば、このようなものは、それを含む全体の部分として動くのではありません(箱の中にあるものが運ばれるように)。またそのようなものは、それに含まれる部分によって動かされるのでもありません(身体が霊魂によって動かされるように)。このようなものをアヴェロエスは「第一に動かされるもの」と呼び、それをもうこれ以上分割できない事物の最小単位だと考えました。たとえば火は大きい質料をとることも、小さい質料をとることも可能です。しかし一定以上小さくなると、もはや火の形相が維持できなくなります。このようなそれぞれの形相がとりうる最小単位が「第一に動かされるものです」。それは固有の形相を持つ事物として自然運動を行うので、それを含む全体の部分として動かされることはありません。またそれ以上小さくなれば形相が消滅してしまうので、少なくともその形相の担い手としては、より小さな部分によって動かされることがありません。この特定の形相が成立しうる最小単位としてのミニマは単に人間の思考の上において存在するのではなく、現実に存在するものとして考えられていました。というのも、アヴェロエスは動物の筋から肉が生じるとき、この肉はまず肉の最小単位として生成し、そのあとで元からあった肉と結合すると考えていたからです。この意味でミニマは事物の真の構成要素であるという点で原子論的であり、同時にそれが質料と形相の結合体であるという点でアリストテレス的でもありました。

 アヴェロエスがミニマの学説を『自然学』7巻冒頭の運動に関する議論を土台に構想していたというのは予想外でした。実はこの彼の考え方はアフロディシアスのアレクサンドロスの見解を引き継いで、ガレノスに対抗するかたちで形成されたということも本書には書かれています。ただそこの部分はまだうまく読めていません。