ミニマとアトムの接近 Emerton, The Scientific Reinterpretation of Form

Scientific Reinterpretation of Form (Cornell History of Science Series)

Scientific Reinterpretation of Form (Cornell History of Science Series)

  • 『形相の科学的再解釈』Norma E. Emerton, The Scientific Reinterpretation of Form (Ithaca: Cornell University Press, 1984), 76–105.

 膨大な学識を統合した著作から、混合とミニマ(最小の事物)についてまとめた第3章を読みました。実に様々なことが書かれています。ここでは本筋の部分だけを。アリストテレスの混合理論を質料形相論の枠組みで解釈しようという試みは14世紀後半には一種の袋小路にはまり込んでいました。この袋小路からの脱出口が見いだされるのは、16世紀初頭から後半にかけてパドヴァ大学で教えた(あるいは学んだ)二フォとスカリゲルが混合を粒子論的に解釈する道をひらいたときでした。

 しかし彼らの学説は何もないところから現れたのではありません。すでにアリストテレスは、ある事物がその事物であり続けることができる最小の大きさというものがあると述べていました。

さらにこれらに加えて、もしあらゆる物体が、それからなにかが取り除かれると、必然的に、より小さなものになるのだとすれば、そして肉の量はその大きさでも小ささでも一定しているとすれば、明らかに、最も小さな肉からはもはやなんらの物体も分離されて出てゆきはしないはずである。なぜなら[もしさらになにかが分離されて出てゆくとすれば、なにかの出ていったあとに残るであろう肉は]最も小さな肉よりさらに小さい、というような[不条理な]ことになるであろうから(アリストテレス『自然学』1巻4章、出・岩崎訳)。

ここからアヴェロエスはミニマ・ナトゥラリア(minima naturalia)というそれ以上分割すると形相が消滅してしまう最小単位の存在を想定するにいたりました。

 二フォはアヴェロエスが成長や生成や変化はミニマの作用によって生じると唱えていたことを強調し、このような方向での解釈を洗練させていきました。その結果、各ミニマが運動して相互に作用することで変化や成長が起こると結論づけるにいたりました。ただし彼の議論は具体的な現象を説明するというより理論的・抽象的に変化をどう理解するかという点に焦点をおいたものでした。

 スカリゲルはさらに一歩踏み出し、ミニマが形相の支配のもとで結合することで混合物が生じると考えました。その他にも彼は広範な自然現象の説明をミニマの相互作用から説明するということを行なっていました。スカリゲルの学説は最小単位の事物が運動と結合によって新たな事物を生じさせると考える点で、ミニマの学説と原子論が接近をはじめる出発点に位置するとみなすことができます。

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  • 吉本秀之「ロバート・ボイルの化学:元素・原質と化学的粒子」金森修編『科学思想史』勁草書房、2010年、255–323頁の284–291頁。
    • 混合とミニマについてのエマートンの論述がまとめられています。