アリストテレスの金色燦然たる雄弁の奔流

A History of Greek Philosophy, Vol 6: Aristotle: An Encounter

A History of Greek Philosophy, Vol 6: Aristotle: An Encounter

  • G. K. C. Guthrie, Aristotle: An Encounter, vol. 6 of A History of Greek Philosophy (Cambridge: Cambridge University Press, 1981), 49–65.

 アリストテレスには2種類の作品群があったことが知られています。一つはいま私たちが手にしているアリストテレス著作集です。これは 1) 彼の講義録・講義ノート、2) 彼と生徒たちが集めていた資料集成(残存するものとして『動物誌』[1–6巻と8巻の一部はアリストテレス。7, 9, 10巻は後世の不可]『アテナイ人の国制』)、3) そしてアカデメイアでの演習形式を踏まえてアリストテレスが集めていたQ&A形式の『問題集』を発展させた現存する『問題集』という3種に分かれます。

 このような学内向けの作品群の他に、アリストテレスは一般向けの著作も著していました。このことは学内向けの講義録でも明言されています。「世間で言われている支配のいろいろな型を分けてみることは何も難しいことではない。というのは公開的議論においてもわれわれはそれらについてしばしば想定をしているからである」(『政治学』3巻6章;山本光雄訳)。キケロによれば、

「最高善」については、二種類の著作が存しており、その一方は一般向きに書かれていて、その人達[アリストテレスとテオプラストス]はこの種の著作を「公刊された一般向きの著作」と呼んでいるが、他方はより精確に書かれているもので、彼らはそれを講義の草稿の形で残している(『善と悪の究極について』5.12)。

この公開的議論は主として対話篇から成り立っていました。その散文は「力強い筆致」で書かれた「金色燦然たる雄弁の奔流」(キケロ)、ないしは「力強くかつ甘美なる雄弁」(クィンティリアヌス)とも言うべきもので、キケロギリシア語を綴るさいに手本にしていたものです。その対話篇ではアリストテレス本人が「自分自身の名において語ってい」たとされています。

 これらの著作は前1世紀に上記のアリストテレス著作集が編集され出版されることにより、しだいに読まれなくなりついには散逸してしまいました(前1世紀でのアリストテレス再発見については下記の関連記事をどうぞ)。ようやく19世紀後半より、古代の文献から失われた諸著作に関する記録を収集するということが開始されます。私たちはその成果を『アリストテレス全集』の第17巻に認めることができます(本記事での引用もここから)。

関連著作

詩学・アテナイ人の国制・断片集 (アリストテレス全集)

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