存在の連鎖 その4 Mahoney, "Metaphysical Foundations"

Philosophies of Existence: Ancient and Mediaeval

Philosophies of Existence: Ancient and Mediaeval

  • E. P. Mahoney, "Metaphysical Foundations of the Hierarchy of Being according to Some Late Medieval and Renaissance Philosophers," in Philosophies of Existence Ancient and Medieval, ed. Parviz Morewedge (New York: Fordham University Press, 1982), 165-257.

 総論に当たる結論部分です(204–212)。存在の階層構造への関心は17世紀に入ると低下していきます。大きな要因として、偽ディオニシウス文書がまさに偽文書であることが判明しはじめたということがあります。ルターとブルーノはいかなる階層理論も認めることはありませんでした。デカルトの理論は人間以外のこの世界に段階を設けることの意味を失わせるものでした。スピノザの哲学もまた反階層構造的です。ライプニッツとロックは階層構造の理論を受け入れていました。しかし彼らとて神が万物の尺度であるという考えはとりませんでした。

 古代から16世紀まで盛んに議論された存在の階層構造の理論を検討してきたことで、いくつかの一般的特徴を指摘することができます。第一にこの理論は存在と本質の区別について対立する見解をとる人物たちによって共通に採用されてきたことから、2つの理論は独立であることがわかります。第二にこの理論は存在階層という形而上学的な上下関係を扱うものでありながら、それが容易に人間の霊魂が上位の階層にのぼるという倫理的な理論と融合するという曖昧さを持っていました。第三に神が遍在するというのにどうしてその神への接近を語ることができるのかという問いにこの理論は付きまとわれました。第四に神は無限であるということと、それが有限物の尺度であることは両立するのかという難問がありました。第五にこれと関連して、神はあらゆる類の外にたつのにまるでそれが存在という類に属すかのように存在の尺度となることは許されるのかという問が提起されました。第六に神が万物の尺度であるということを、数字の1が他のすべての数字の尺度であるということと類比的にとらえる思考が常に存在しました。この類比を字義通りにとらえて、数字に欠損がないように種にも欠損がないとして、欠けた種の発見のための努力が行われるようになったのは、近代に入ってからのことです。

 存在の階層構造の理論のすべてに通底するのは、空間的な比喩を使って世界の構造を記述することが有効であるという信念でした。これによって非物質的でそれゆえ感覚ではとらえられない領域についての観念を分かりやすく伝えることができます。しかしそれは同時に比喩が字義通りに解釈されるという危険性も内包していました。多くの中世とルネサンスの思想家たちはこの危険を回避してしようとしていました。