実験的錬金術の伝統

 中世から初期近代にかけての錬金術師たちは、アリストテレスの『自然学』と『気象論』に依拠して、実験的に自然に介入することで自然現象を再現できると主張しました。この事実はアリストテレス主義が実験の遂行をさまたげていたという通説の誤りを示しています。実験的に自然に介入することで錬金術師たち(とりわけ偽ゲベル『完全大全』に発する伝統に連なる人々)は、物質を一度溶剤で分解したあとにもなお元の物質を復元できることから、化学的操作ではそれ以上分解できないような基礎的物質が事物を構成しているとみなすにいたりました。この実験とそこから引き出された帰結はボイルに引き継がれることになります。よって彼の機械論哲学を錬金術とスコラ学からの単純な決別とみなすことはできません。一方、溶剤による分解の前後の物質の重量をはかることで反応の前後で重量は変わらないと結論づけたのがファン・ヘルモントでした。この知見は、前述の操作主義的基礎物質観と並んで、錬金術の伝統と後に化学と呼ばれることになる領分のつながりを示すものです。