初期近代の解剖学 Bertoloni Meli, Mechanism Experiment, Disease. #1

Mechanism, Experiment, Disease: Marcello Malpighi and Seventeenth-Century Anatomy

Mechanism, Experiment, Disease: Marcello Malpighi and Seventeenth-Century Anatomy

  • Domenico Bertoloni Meli, Mechanism, Experiment, Disease: Marcello Malpighi and Seventeenth-Century Anatomy (Baltimore: Johns Hopkins University Press, 2011), 1–25.

 初期近代の解剖学についての最新の研究書から序文を読みました。17世紀中頃から終盤にかけての解剖学とその周辺で起きていたことを、マルピーギ(1628–94)を分析の軸にすえて明らかにしようというものです。ボローニャで生まれ、同地のほかピサ、メッシナ、ローマの各都市で活動したマルピーギは、多様な場での解剖学活動に参画していました。たとえば師であるボレッリや自分自身の個人邸宅での研究活動、大学の講義室での解剖実習がありました。祭りのときにおこなわれる解剖劇場での催しをマルピーギが担当することはありませんでした。ボローニャの解剖劇場は新知見を披露するばというよりも、新知見を攻撃する場であり、マルピーギの学説が攻撃されることがありました。そこで彼は解剖劇場の場で受けた挑戦に反論する文書を著しています。マルピーギはまたボローニャの薬局の店主であるCantoniと懇意にしており、おそらくこの人物の店である Spezieria del Soleは彼らの実験と議論の場になっていたのではないかと思われます(ハーヴィやオックスフォードの学者たちにとってのJohn Ckarkeの店と類似の役割)。

 マルピーギは同時代の解剖に携わっていた多くの人物と同じく、生体をマシーンとして理解しようとしていました。人体を理解するにも機械を理解するのと同じく、全体を構成する諸部分をばらして、個々の部位の働きを理解する必要があるというのです。こうして従来は霊魂なり自然なり何らかの非物質的な原理が関与すると考えられていた生成や病気は、何らかの理由で特定の箇所で起こった身体の動作不全と捉えられるようになります。病気と解剖学の結びつきには強いものがありました。病気によって肥大化したり固着化したりした体の部位や、病気により放出される体液が解剖学的に貴重な知見をもたらすとマルピーギは考えていたからです。

 解剖学の進展のためには学者間の協力が不可欠であり、各大学の教員たちは緊密なネットワークで結ばれていました。初期近代の学問上の発見に大学が大きな役割を果たさなかったという見解は解剖学の分野では妥当ではありません。解剖は技術の発達と共により精緻となる一方で、多くの問題を引き起こしました。たとえば個々の身体で見つかる解剖学上の知見はどこまで一般化可能なのか。生体解剖と死体解剖のどちらがのぞましいのか、といった問題です。