身体にたとえられる地球 Taub, "Physiological Analogies and Metaphors"

Blood, Sweat and Tears -: The Changing Concepts of Physiology from Antiquity into Early Modern Europe (Intersections Interdisciplinary Studies in Early Modern Culture)

Blood, Sweat and Tears -: The Changing Concepts of Physiology from Antiquity into Early Modern Europe (Intersections Interdisciplinary Studies in Early Modern Culture)

  • Lisa Taub, "Physiological Analogies and Metaphors in Explanations of the Earth and the Cosmos," in Blood, Sweat and Tears: The Changing Concepts of Physiology from Antiquity into Early Modern Europe, ed. Manfred Horstmanshoff, Helen King and Claus Zittel (Leiden: Brill, 2012), 41–63.

 自然現象を人体で生じている現象と類比的に(ないしは人体で生じている現象にたとえて比喩的に)説明することは古代より行われてきました。この種の類比と比喩をアリストテレスエピクロスルクレティウスが気象現象と地質学的事象の説明にどう活用しているかを検討する論文を読みました。アリストテレスは『気象学』のなかで地震を次のように説明しています。

われわれのからだのなかの震えと動悸の原因が、からだのなかに閉じ込められた息の力にあるように、大地の中でも風がこれに似た働きをなすのである。したがって、地震のうちで或るものは震えのようであり、或るものは動悸のようであり、またこれらに伴ってしばしば痙攣が起こるように、大地においてもそうしたものが起こるのである…。(2巻8章; 泉治典訳)

このような類比的な説明はアリストテレスの自然学関係の著作に頻出します。それを彼が単に自然現象の理解を容易にするために用いているのか、それとも類比により現象の真の原因を説明しようとしていたのかは不文明です。

 エピクロス派の詩人ルクレティウスもまた地震を類比的に説明しています。雨についても次のように論じます。

さてそれではどのようにして高い雲の中で、雨となる水が生じ、大地に注がれて雨となって落ちるかを説明しよう。まず水の種子(アトム)が多数雲そのもののともに、すべてのものから立ちのぼり、そして雲と雲の中の水とは、ともに並んで大きくなることを認めてほしい。ちょうど私たちの身体が血とともに大きくなり、汗もそしてまた体の中の水分も同じく大きくなるように。(第6歌495–500行;藤沢令夫訳)

第2巻の最後では次第に実りをもたらさなくなっている大地が、老いていく人間に喩えられています(「すべてのものが少しずつ細ってゆき、長い歳月にやつれて、棺へと向かう」)。

 類比と比喩を用いた説明は初期近代の自然哲学でも行われていました。アリストテレスにしてもルクレティウスにしても地球が生きているとは考えていませんでした。それでもなお彼らは人体で生じていることを参照することが、地球で生じていることを説明することの助けになると信じていたのです。