- 作者: Manfred Horstmanshoff,Helen King,Claus Zittel
- 出版社/メーカー: Brill Academic Pub
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- Sabine Kalff, "The Body is a Battlefield: Conflict and Control in Seventeenth-Century Physiology and Political Thought," in Blood, Sweat and Tears: The Changing Concepts of Physiology from Antiquity into Early Modern Europe, ed. Manfred Horstmanshoff, Helen King and Claus Zittel (Leiden: Brill, 2012), 171–94.
政治思想における生理学的議論フレームに着目することで、統治技術の医学化(medicalisation of governmental techniques)という視点を打ち出した論文です。トマゾ・カンパネッラとフランシス・ベイコンという2人の思想家が取り上げられます。
カンパネッラはその医学著作のなかで、熱の症状を身体が病気に対して戦争、それも正しい戦争を挑んでいることのあらわれとみなしています。発熱にともない身体の器官が不調に陥るのは、ちょうど外敵を退けるために戦争に突入すると平時の政治活動が停止するのと同じであるとされました。政治的な枠組みで論じられるカンパネッラの生理学的見解は、彼の実際の政治活動を色濃く反映したものでした。彼はナポリ王国を支配するスペイン勢力を追放しようという政治的クーデターを引き起こそうとしていました。外敵を排除するための闘争は正戦であるという考え方は、彼の政治行動にも生理学にもあらわれているのです。
フランシス・ベイコンもまた生理学と政治思想を結びつけて考察していました。身体のなかで生命的精気が各部位でローカルに起こる運動を統御して、全体として生命を維持しています。それと同じように国家統治においては、王が諸々のローカルな勢力同士の対立を統御して、全体として安定した政治を実現するというのです。相互に対立する勢力同士の闘争の末に秩序が生まれると考えたカンパネッラと異なり、ベイコンが対立を制御する精気なり王なりの視点から秩序の樹立を考察したのは、彼が大法官という高位にまでのぼりつめた経験の持ち主であったからでしょう。ちなみにカンパネッラはずっと幽閉されていました。
ミシェル・フーコーは初期近代に現れた国家理性の実践者たちが、諸外国との勢力均衡を保つことで国家を安定させることを構想し、この構想がライプニッツが提唱したような力の相互作用に依拠した運動の科学を土台にしていたと論じました。しかしカンパネッラとベイコンの事例から分かるのは、国家統治技術に関するアイディアが生理学的な均衡という状態を参照することによっても構想されていたことです。こうして政治の科学を医学の上に打ちたて、統治の技術を医学化することが行われたのです。
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