中世哲学の基本問題 マレンボン、ラスカム「永遠性と位階制」

中世の哲学―ケンブリッジ・コンパニオン

中世の哲学―ケンブリッジ・コンパニオン

 中世哲学を特徴付ける2つの観念を概観する論考を読みました。中世の思想家はみな神を永遠的であると考えました。ここで永遠的であるとは、およそ神というのは時間的尺度で測ることができなく、むしろ時間のそとにある存在であるということです。しかしだからといって神を時間から切り離して無時間的な存在とみなすことも(不可能ではないとはいえ)困難でした。何しろ正典には歴史の特定のときに特定の行為を神がなしたことが疑問の余地なく書かれているからです。ここから神が時間を超越しながらも、すべての時間に存在するという事態を説明するという課題が生まれました。

 偽ディオニュシオス・アレオパギテスは、天上、ないしは天使的な位階と教会の人間的位階制を規定し、それぞれを三階、および二階の三つ組からなるとしました。

  • 天上の位階制
  • 教会の位階制
    • 修道士
    • 聖なる人びと
    • 浄化される品級

 この図式(88–89ページから引用)をどう理解するかが政治的問題を論じる際の焦点となったのは、オーベルニュのギヨーム(1180/90–1249)以降でした。彼は天上の位階が教会組織のみならず、世俗の国々の政治組織にある品級にも反映されていると考えます。これ以後、位階制をどう構想するかは聖俗の権力関係のあるべき姿をどう構想するかを反映するようになりました。ボニファティウス八世のように神と人との第一の仲介者たる教皇に他のすべての人間は従属すべきとするものから、世俗社会は天上の位階をモデルとして築かれはしないので、世俗的なことがらに関して俗人が教会に従属擦る必要はないとするパリのヨハネス(1306年没)のような人物があらわれました。ヨハネスの考えの背後には、各品級ごとに本性を異にする天使とは異なり、本性的にすべて同等である人間のあいだでは、天上界を完全に模倣した位階制は築けないというトマス・アクィナス(1224/25–74)の理論がありました。ジョン・ウィクリフ(ca. 1325–84)は、天使ルシフェルが堕落し天使の位階制から追放されたように、聖職者が人びとを浄化し照明する力を失うほどに堕落すれば、教会の位階制から追放され俗人にたいして従属的地位に置かれると論じました。位階制の議論が世界にあるべき構造についての意見の不一致を反映し、多様に展開されたことが分かります。