感性の歴史 フェーブル「いかにして往時の感情生活を再現するか」

叢書『アナール 1929-2010 歴史の対象と方法』 1 〔1929-1945〕 (叢書『アナール 1929-2010 歴史の対象と方法』(全5巻))

叢書『アナール 1929-2010 歴史の対象と方法』 1 〔1929-1945〕 (叢書『アナール 1929-2010 歴史の対象と方法』(全5巻))

  • リュシアン・フェーブル「いかにして往時の感情生活を再現するか 感性と歴史」『叢書アナール1929–2010 歴史学の対象と方法 I』E・ル=ロワ=ラデュリ、A・ビュルギエール監修、浜名優美監訳、藤原書店、2010年、327–353ページ。

 リュシアン・フェーブルが1941年に発表したプログラム的な論文です。けっしてわかりやすくは書かれていないのですけど、おおよそ次のようなことが言われているように思います。過去の人の感性、感情生活を復元するというのは、たとえばある個人についてその性格や気持ちをうかがわせる史料が残っているときに、その人物のあるときの感情を心理学の助けをかりて復元するということではありません。フェーブルはこのような試みをあまりに不安定としてしりぞけているようです。かわりにかれが提唱するのが(こういう表現は使われていないのですけど)より集合的な感情生活のあり方の復元です。この復元は過去の制度や思想を理解するに不可欠です。というのもこれらはその根本にある感情のあり方によって規定されているからです。ではどうやってこれを復元するか?まずホイジンガのようにある時代がとりわけ荒々しい感情を持っていたがそれが時代の変遷とともに消失した、というような図式は否定されます。そのようなある時代に特徴的な感情というもとはない。むしろ近年(といっても1941年ですけど)の心理学の成果をいかして、私たちに内在する感情的な側面と、それを飼い慣らしていく知的生活のあいだにある対立というのがどの時代にもあるとみなし、この対立のなかでどのような感情生活がときや場所によって形づくられているかを検出する必要があるとフェーブルはします。そのときには裁判資料や文学作品、そして芸術史料を注意深く用いる必要があると強調されます。