古代ギリシア 地中海への展開―諸文明の起源〈7〉 (学術選書)
- 作者: 周藤芳幸
- 出版社/メーカー: 京都大学学術出版会
- 発売日: 2006/10/01
- メディア: 単行本
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古代ギリシア史の基本書から最初の2章を読みました。克服が目指されているのは伝統的な地中海分断モデルです。地中海分断モデルとはギリシアをエジプト・西アジアとは質的に異なる文明圏として理解しようとするものです(マルクス、ウェーバー、ポランニー、フィンリーの立場)。このモデルにそってこれまで暗黒時代以前のミュケーナイ文明とそれ以後の文明を区別することが行われてきました。前者では宮殿を中心とした再配分体制がしかれており、きわめてエジプト・西アジアと近い社会がみられる。これにたいして暗黒時代以降のギリシアではこれとはまったく異なる社会が姿をあらわすというのです。なるほどたしかにミュケーナイ文明は宮殿を中心に成りたっており、また西アジア文明圏から戦車をとり入れ王権の権威の象徴として使っていました(地形が険しいギリシアでは戦車の実用性は低い)。しかしミュケーナイ文明を以後のギリシアと切り離すことはできません。そこで使われていた線文字Bは古い形のギリシア文字でした。また宮廷といってもその規模は決して大きくなく、また宮廷の権威を示すための象徴体系も発達していませんでした。どうやらミュケーナイ社会での王権と一般の人々との距離はエジプトにおけるそれよりもはるかに近いものであったようです。このことはミュケーナイ社会をエジプト・西アジアの社会から完全に混同することも、またそれを後のギリシア社会から切り離すことも誤りであることを示しています。