古代末期の社会と哲学 Digeser, "The Late Roman Empire"

The Cambridge History of Philosophy in Late Antiquity 2 Volume Hardback Set (2 Volume Set)

The Cambridge History of Philosophy in Late Antiquity 2 Volume Hardback Set (2 Volume Set)

  • Elizabeth Depalma Digeser, "The Late Roman Empire from the Antonines to Constantine," in The Cambridge History of Philosophy in Late Antiquity, ed. Lloyd P. Gerson, 2 vols. (Cambridge: Cambridge University Press, 2010), 1:13–24.

 ここ40年の古代末期哲学研究の到達点として編まれた論集の冒頭におかれた論文を読む。古代末期という時代全般の状況を語りながら、そこに同時代の哲学活動の特徴を位置づけるということが目指されているものの、成功していないように思える。アウグストゥス以降帝国の当地は安定し、人もモノも思想も容易に移動するようになった結果、かつてみられなかったほどの文化的混淆が生じた。しかしこの安定も2世紀後半から崩れ、内戦と蛮族の侵入が相次ぐ時代となる。こういう時代背景のもとでヘゲモニーを獲得したプラトン哲学は、理性をつうじての超越へのアクセスを模索するようになり、これがまたユスティノス以降のキリスト教と相互に作用するようになる。

 古代後期の哲学の学説としては関連記事で引いたハースの論考の方が優れている。哲学のもつ宗教的側面にかんしては、モウストの概説により深い洞察がみられる。