Tartt, The Secret History

The Secret History (Vintage Contemporaries) (English Edition)

The Secret History (Vintage Contemporaries) (English Edition)

  • Donna Tartt, The Secret History (New York: Knopf, 1992).

 ミステリーである。Bunny殺害の犯人は、Richard Papenほか4名の学生である。こう書いてもいわゆるネタバレには当たらない。というのも小説冒頭で犯人は明らかにされているからだ。とするとコロンボ型の小説だろうか。しかし冒頭部ではけっきょく犯人たちは逮捕され裁判にかけられることもなかったとも書かれている。コロンボはいない。では犯人たちがなぜ犯行にいたったかを描くのが目的だろうか。これは部分的には正しい。だが犯行は小説の半ばでなしとげられてしまう。後半をしめるのは犯行後の出来事の描写だ。するとこれははたして本当にミステリーなのか?話がここまで進むと本書の狙いが明らかになってくる。それが何なのかを私本人も実はよくわかっていないし、たとえわかっていたとしてもここで語るべきではないだろう。ひとつ言えるのは、500ページ以上にわたる叙述を読み終えたときにはたいへん重苦しい気持ちになるということだ。『悪霊』が下敷きにあるのかもしれない。

 同時に本作は大学でギリシアラテン語を学んだ者の心を絶妙にくすぐる。正直このくすぐりがなければ(かなりだるい記述も含む)500ページを読み通すのは無理だっただろう。数人で机を囲み、お茶を飲みながら古代世界について議論しているシーンは、自分自身の(多分に美化された)幸福な学習の記憶と重なるものがある。"I hope we're all ready to leave the phenomenal world, and enter into the sublime?"

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