公共善のための書評 Nussbaum, Philosophical Interventions

Philosophical Interventions: Reviews 1986-2011

Philosophical Interventions: Reviews 1986-2011

  • Martha Nussbaum, Philosophical Interventions: Book Reviews, 1986-2011 (Oxford: Oxford University Press, 2012).

 表題のとおりヌスバウムが1986年から2011年のあいだに書いた書評を集めた論集である。といっても(古代)哲学研究の専門家向けに書かれたものははぶかれている(彼女の最初の書籍はアリストテレス『動物運動論』の注釈書である)。収録されているのは、より時事的な問題と関係し、一般の読者にうったえかけるような内容を含む書評である。序文に含まれるのは、彼女がそのような書評を書くようになったきっかけ、アメリカにおいて書評がはたす役割、あるべき書評の姿、そして本書に収められた書評の解説だ。アメリカでアカデミアの研究者が一般の人々と継続的に対話し、そこから現行の議論に介入することを可能にするメディアは書評しかないという診断は興味深い。だがそれよりも印象的なのは、彼女がこのような一般向けの書評を書くようになったきっかけだ(1ページ)。そのとき一般向けの雑誌に書評を書くことになっていたヌスバウムは、ジョン・ロールズにアドバイスをもとめた。そのような原稿の執筆に自分は時間を費やすべきだろうか。

彼は「ノー」と言うだろうと私は期待していた。書物と哲学の論文を書くことが重要なのだと。実際、そうやって彼は人生を過ごしてきたのだ。だが彼は私を驚かせた。パブリックな知識人(public intellectual)として話し、書く能力が自分にないことは承知している(そのとき彼が自分を常に苦しめていた吃音のことを考えていたのは間違いない。だがおそらくは緻密で難解な(dense)文章のスタイルのことも考えていただろう)。だがそのような能力をもつ者は、その能力を公共の善(public good)のために用いる義務がある。そう彼は言ったのだ。私はそれを決して忘れなかった…。

 こうしてヌスバウムのいくつもの著作とここに収録された書評が生まれた。ジュディス・バトラーを批判した有名な書評も収められている。だが私としてはむしろヌスバウムがこれは埋もれさせてはいかない、と思った書物の価値を提示する手つきからこそ学んでいきたい。