カルダーノにおける病気、自然魔術、ダイモン Siraisi, The Clock and Mirror, ch. 7

The Clock and the Mirror: Girolamo Cardano and Renaissance Medicine (Princeton Legacy Library)

The Clock and the Mirror: Girolamo Cardano and Renaissance Medicine (Princeton Legacy Library)

  • Nancy G. Siraisi, The Clock and Mirror: Girolamo Cardano and Renaissance Medicine (Princeton, NJ: Princeton University Press, 1997), 149–73.

 カルダーノの医学思想をあつかう著作から、オカルト因と自然の驚異にたいする彼の態度をあつかう章を読む。まず同じような主題を扱った同時代の医学者として、Antonio Benivieniとジャン・フェルネルがとりあげられる。Benivieniは彼本人が遭遇した珍しい症例を列挙した著作を出版している(カルダーノも同種の症例集を出版していた)。そこでBenivieniは病気の原因の多くを地上における物体的なものとしてとらえている。原因を天に求めることは行わない。地上の自然的原因から説明できない病気は、原因が単に人間に知られていないか、超自然的(ないしは悪魔的)な起源をもつ。最後の類型の存在は数こそ少ないものの、Benivieniの著作の中核をなしていた。奇跡の存在は彼が支持するサヴォナローラのプログラムを裏打ちしていたからである。一方フェルネルの世界観のうちでは天がきわめて大きな役割を果たしていた(この点でカルダーノと同じ)。天から来たる精気は世界を運行を統制すると同時に、病気を引き起こす原因ともなりえた。このとき精気がもたらす病気は患者の体液のバランスを乱すのではなく、その実体なり形相なりを根本的に損なう性質を持つとされた(この理論の方が伝染病を説明しやすかった)。そこからフェルネルは、このような性質を持つ病気は悪魔やその力を借りた人間によってももたらされうると論じた。

 カルダーノは驚異的な現象をあつかうにあたり、ポンポナッツィの『魔術論』を批判する。だが根本において彼はポンポナッツィの意見に同調している部分があった。奇跡と思われている事象の多くは、実際には自然的な原因を持つという考えである。よって一見不思議にみえる業をなしとげる魔術はじつ大工術と同じくらい理解可能なもので、その行使になんの問題もない。だが彼は悪魔、ないしはダイモンが病気を引き起こすことを否定もしなかった。とはいえニフォのようにダイモンを悪意に満ちた存在ともみなさなかったし、フェルネルのように多くの病気の原因とみなすことにも消極的であった(「プラトン主義者たちはとりわけダイモンを固く信じ込んでいる」)。彼にとってダイモンや守護霊は、自らの知識の原因でもあり、否定的にのみ評価されるべきものでもなかったからだ。カルダーノは既存のどの立場にも満足せず、そのあいだを行こうとしていたといえる。

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