- Jonathan Regier, "Kepler's Theory of Force and His Medical Sources," Early Science and Medicine 19 (2014): 1-27.
ケプラーの宇宙論が当時の医学理論に負っていたと論じる論考である。著者がとりあげるソースは二つで、フィリップ・メランヒトンとジャン・フェルネルである。このうち議論の中核をしめるのはメランヒトンである。メランヒトンはその『霊魂論 Commentarius de anima』(1540年)のなかで、医学において想定されていた人間身体中のスピリトゥスが、聖なるスピリトゥス(聖霊)とまじりあうと論じている。著者によれば、ケプラーはここから『宇宙誌の神秘』にある自己の理論を引きだしたのだという。そこでは太陽と諸惑星の軌道を隔てる空間が、聖霊にたとえられている。この空間は微細な空気であるスピリトゥスによって占められている。この聖霊とスピリトゥスの接近に、ケプラーのメランヒトンへの依拠がみられると著者はする。スピリトゥスは太陽に宿る霊魂から出される力の運び手として機能している。
のちのケプラーは太陽の霊魂から出る力を磁気の力と同一視するようになる。ギルバートの『磁石論』を受けてのことである。そこでは太陽の霊魂から形象(species)が拡散し、惑星を動かすという。太陽の霊魂と惑星という諸物体の媒介として置かれていたスピリトゥスが形象にとってかわられたのである。事実ケプラーはスピリトゥスと形象が類比的であると認めている。彼曰く、体の中心の心臓からスピリトゥスがでて身体を統御するように、宇宙の中心である太陽から駆動力(virtus motrix)としての形象が拡散しているというのだ。この形象は幾何学的に拡散していく。拡散していったさきで物体(嵩moles)に出会うと、力として発現する。拡散は円状に生じるため、距離が離れるにつれて、駆動力の強さは弱る(これによりケプラーの第二法則が説明される)。こうして太陽は諸惑星を回転させている。
こうしてそれ自体は物体とはいえない力が拡散し、それが物体(嵩)と出あうと力を行使するという考えをケプラーは提示した。その力の強さは、力の源と物体との距離がひろがればひろがるほど弱まる。このような力はやがて『プリンキピア』で想定されるようになるものである。その出発点には医学的スピリトゥスがあったのであった。
というのが内容である。だがメランヒトンの「聖霊と医学的スピリトゥスが混ざる」という見解が、「太陽と惑星のあいだにあるスピリトゥスは、三位一体の聖霊と類比的にとらえうる」というケプラーの着想の源泉となったというのはほんとうだろうか。どうもこの二つの見解のあいだには距離があり、前者から後者が出てくるようには思えないのだ。