ウェルギリウスと視覚理論

 先日、蒸気と熱の関係が話題になっていました。ウェルギリウスを読んでいて、視覚理論と哲学の関係を示唆する箇所があったので紹介しておきます。ラテン詩と哲学との接点ですね。

 『アエネーイス』6歌204行目に「黄金の風auri aura」という表現があります。これはなにも風が黄金色しているというわけではありません。というか黄金はここでは名詞なので、英語で言い換えると「wind of gold」となります。
 この一見意味不明な表現は、なんと「黄金の輝き」を意味しているようです。この箇所に、4世紀のウェルギウス注釈家であるセルウィウスは、次のような注釈をつけています。

avri avra: splendor auri. Horatius "tua ne retardet aura maritos", id est splendor. hinc et aurum dicitur a splendore, qui est in eo metallo. hinc et aurarii dicti, quorum favor splendidos reddit.

黄金の風:黄金の輝きのこと。ホラティウスは「あなたから出る風〔匂い〕が夫たち引きとめはしないかと」(Od. 2. 8. 23-4)と歌っている。ここでの風というのは、輝きのことである。ここからどうして黄金のことを〔ラテン語で〕aurumと言うかがわかる。黄金の中にはsplendor(輝き)があり、splendor(輝き)=aura(風)であるから、黄金は〔auraから派生して〕aurumと言われるのである。また、同じ理屈で、輝くもの(splendidos)を喜んで作る人は、金細工師(aurarii)と言われる。(やや意訳)

 セルウィウスのホラティウス解釈はかなり怪しいですが、ウェルギリウスが、黄金の輝きを風という言葉で言い換えていることは間違いなさそうです。ウェルギリウスは黄金から物質が出て、それが風のように目に届いて視覚が生じると考えています。注釈書*1によると、これはルクレティウスの原子論を意識した表現だそうです。
 ウェルギリウスエピクロス派(ルクレティウス)を意識している箇所は多いと言われます。感覚理論に関してもエピクロス派(ルクレティウス)を意識している箇所が、他にも探せばあるかもしれません。

*1:マクレナンという人の「購読用に変更が加えられていない生のラテン語はじめて読む人に使ってほしい」という初心者向け注釈書。