http://www.asahi.com/politics/update/0105/007.html
各所で話題沸騰のこの記事。すでにid:kamo_negitoroさんも指摘しているように、同じ記者団とのやり取りの内容が、毎日新聞と日経新聞では、首相が労働時間規制除外制度に慎重な態度を示したという形でまとめられています。
朝日の記事の中の
「日本人は少し働き過ぎじゃないかという感じを持っている方も多いのではないか」
「(労働時間短縮の結果で増えることになる)家で過ごす時間は、例えば少子化(対策)にとっても必要。ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)を見直していくべきだ」
という首相の発言はおそらく事実なのでしょう(首相官邸からの抗議もないようですし)。
ただやり取り全体のニュアンスについて、朝日新聞が毎日や日経と正反対の書き方をしているというのは気になります。記者と首相とのやり取りの正確な記録を見ないうちに、朝日の記事だけで首相の意図を判断してしまうのは、少し朝日を信用しすぎなのではないかと思います。
それはともかく、安倍首相の発言は、確かに先日出された報告書の内容に沿ったものではあります。
厚生労働省:「今後の労働契約法制の在り方について」及び「今後の労働時間法制の在り方について」についての労働政策審議会からの答申について
この報告が労働契約法制を見直さなくてはならないと主張する根拠は二つです。
- 労働時間の状況
- 産業構造の変化
前者については、労働時間が長短二極化しており、子育て世代の男性を中心に長時間労働の弊害が見られる。そのため、
仕事と生活のバランスを確保するとともに、労働者の健康確保や少子化対策の観点から、長時間労働の抑制を図ることが課題となっている。(1ページ)
後者については、産業構造の変化に伴い、ホワイトカラー労働者が増加している。このような労働者は自由度の高い働き方をする例が見られる。ここから、
このような働き方においてもより能力を発揮しつつ、長時間労働の抑制を図り、健康を確保できる労働時間制度の整備が必要となっている。
ようするに、長時間労働の抑制というのは、少なくとも建前としてはこの報告でも強調されているわけです。
で、労働時間規制除外制度が適用されるホワイトカラー労働者というのは、次のような人々です。
- 労働時間では成果を適切に評価できない業務に従事する者であること
- 業務上の重要な権限及び責任を相当程度伴う地位にあるものであること
- 業務遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととするものであること
- 年収が相当程度高いものであること (8ページ)
このような労働者の「個々の働き方に応じた休日の確保及び健康・福祉確保措置の実地を確実に担保(8ページ)」するために、次のような提言が行われています。
- 労使委員会は、次の事項について決議しなければならないこととすること。
- iii 週休2日相当以上の休日の確保及びあらかじめ休日を特定すること
- iv 労働時間の状況の把握及びそれに応じた健康・福祉確保措置の実地。
- 健康・福祉確保措置として、「週当たり40時間を越える在社時間などがおおむね月80時間を超えた対象労働者から申出があった場合には、医師による面接指導を行うこと」を必ず決議し、実施することとすること。
- 制度の履行確保
- 対象労働者に対して、4週4日以上かつ一年間を通じて週休2日分の日数(104日)以上の休日を確実に確保しなければならないこととし、確保しなかった場合には罰則を付すこととすること (8−9ページ)
おそらく安倍首相の中には次のような図式があるのだと思います。
労働時間に対して報酬が与えられるという制度(=残業代を払う)が改められ、かつ上に書かれているような要求が完全に満たされる。
↓
時間外労働を行う動機がなくなり、労働者の休日も確保される。
↓
余暇が増え、子育てに振り向ける時間が増加する。
要するに安倍首相は、この報告書が提唱している「長時間労働の抑制と働き方の多様化に対応」という目標をそのまま信じ、多少自分の言葉を織り交ぜながらそれを繰り返しているだけではないかと思われます。
もちろん、
- 確保された休日を仕事に当てて成果をあげようとする人が大半ではないか
- 「相当程度高い」年収の人々の数は多くなく、その人たちに余暇が増えたからといって少子化対策に寄与するところはあるのか
- そもそも「相当程度高い」年収の人々は、余剰資金が豊富で子供を生みやすい状況にすでにあるのではないか
といった疑問を私としては持つのですが。
というわけで、とりあえず
- 朝日新聞をそのまま信用することはしたくない
- 安倍首相は官僚から受けたレクチャーを繰り返しているだけではないか
というのが私の言いたいことでした。