医学史と科学革命　Cook, "The History of Medicine and the Scientific Revolution"

Harold J. Cook, "The History of Medicine and the Scientific Revolution," Isis 102 (2011): 102–108.
- http://www.jstor.org/stable/10.1086/658659（無料で読むことができます）

　20世紀の医学史研究の簡単な概説になっている論考です。概念上の転換に関心を寄せる科学史の歴史記述法（20世紀初頭の美的モダニズムにさかのぼるといわれます）が支配的ななか、医学史への関心は決して高くありませんでした（高く評価されたのは、哲学や宗教に基礎づけられた医学知識を分析の主題とするWalter Pagelの諸作品でした）。そのような状況が変わりはじめるのは、1970年代に医学の社会史と呼ばれるようになる研究手法があらわれ、さらにはミシェル・フーコーやアナール派の影響が拡大することによってです。たとえば「下からの歴史」をとなえたRoy Porterは、18世紀の医学実践や理論が形成されるにあたって、患者の存在や商業活動が重大な意味をもったと論じました。初期近代に関しては、学識ある医学者による理論が、じつは彼らをとりまく多様な医療従事者への対抗や反応によって形づくられていたことが明らかにされています（粒子論、原子論、デカルト主義といった諸理論への反応よりも多くの場合重要な意味をもった）。概念上の転換という視角から離れて、多様な人間の活動との関係で医学の歴史を理解するためには、これからはたとえば理性よりも感情に注意をはらうこと、ローカル知識への理解を深め、それがどうしてときとして普遍的な知とみなされるといたるかを解明すること、物質的、制度的側面を重視すること、そして都市史、経済史、政治史、軍事史の研究を哲学史、宗教史と同じくらいか、あるいはそれ以上に重視することが求められるとされます。

関連文献

Roy Porter, "The Patient's View: Doing Medical History from below," Theory and Society 14 (1985): 175–98.
- http://www.jstor.org/stable/657089
  - Porterの代表的論文。

Margaret Pelling and Charles Webster, "Medical Practitioners," in Health, Medicine and Mortality in the Sixteenth Century, ed. Webster (Cambridge: Cambridge University Press, 1979), 165–235.
- 初期近代イングランドにおける医療実践者についての先駆的研究。