アリストテレスの引用の仕方

 現代の研究者がアリストテレスの著作から引用する場合、普通はベッカーという文献学者が19世紀につくった校訂版のページ数を用います。

 しかしもちろんこの引用の仕方はベッカー以前は存在しませんでした。そのためそれまでは別の引用の規則があったわけです。

 で、私はこれまでベッカー以前は基本的には、該当箇所を第何巻第何章という具合に引いていると思っていました。事実そのように引いている人はかなりいます。

 しかし今読んでいるスカリゲルはアリストテレスに言及する際に、『形而上学』第5巻…とは書いても第5巻の何章かは言ってくれませんん。そのため、これまで引用箇所を探す時には第5巻のすべてをくまなく見ないといけませんでした。

 ところが、スカリゲルがアリストテレスを引く時には、たいてい本文の横に数字が書いてあります。たとえば25とか52とか。

 これまでこの数字が何を意味するか分からなかったのですけど、今日スカリゲルが書いた序文を読んでみてようやく分かりました。この数字は当時のアヴェロエスラテン語訳に添えられていたアリストテレスのテキストに付された番号だったのです。

 たとえば『形而上学』第12巻とあって、横に52という数字が書いてあれば、これはアヴェロエスの『形而上学』大注解の第12巻の第52番目のアリストテレステキストを見よ、ということになります。で、この数字は有名なGiunta版のアヴェロエス全集から調べることができます(GallicaからDLできます)

 スカリゲル曰く、学生時代からアヴェロエスを教えられてきたため、この方式でアリストテレスを引用することにしたそうです。

 この引用方式がどの程度広がっていたかはわかりませんけど、ベッカー以前にはアヴェロエスのテキスト番号でアリストテレスを引用していた時代があったわけです。

 何が言いたいかというと、もっと早くこのことに気が付いていれば引用箇所の確定にここまで苦労することもなかった…ということでした。