Subverting Aristotle: Religion, History, and Philosophy in Early Modern Science
- 作者: Craig Martin
- 出版社/メーカー: Johns Hopkins Univ Pr
- 発売日: 2014/03/13
- メディア: ハードカバー
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- Craig Martin, Subverting Aristotle: Religion, History, and Philosophy in Early Modern Science (Baltimore: Johns Hopkins University Press, 2014), 70-85.
初期近代のアリストテレス主義を総覧する新刊から、ポンポナッツィ以後のイタリアのアリストテレス主義を扱う第5章を読む。アヴェロエスの受容を軸にして、通常の哲学史の記述からは漏れてしまう人物たちを非常に手広く拾いあげている。この時期のアリストテレス主義を調べる者は今後まずこの書物を繰ることになるだろう。
ラテラノ公会議でキリスト教の教義と哲学の教説の一致を達成することが命じられ、ポンポナッツィの霊魂論が論争を呼んだにもかかわらず、16世紀のイタリアの自然哲学者の多くは、キリスト教教義との一致・不一致とは独立に、アリストテレスの真の見解を確定しようとつとめていた。その際アヴェロエスが主要な権威として参照されることになる。その知性単一論への支持は退潮していったとはいえ、16世紀を通じてアヴェロエスへの関心は高まっていった。その全集は1570年代以前に10度印刷されている。大学での講義をもとに、アヴェロエスへの著作(たとえば『天球の実体について』)への注釈書が著されるようになる。ある問題についてアヴェロエスの分析を主要に参照した論考が書かれるようにもなった。
アヴェロエスが権威となった一つの理由は、彼がギリシア人注釈家と一致するアリストテレス解釈を行っているとみなされたからであった。アヴェロエスはギリシア人にしたがっており、それゆえアリストテレスに忠実であるというわけだ。同じ理由からアヴェロエスが批判されることもあった。彼はギリシア人注釈家の学説を剽窃しているというのだ。また別の立場からは、アヴェロエスとギリシア人注釈家との違いが強調された。プラトンとアリストテレスの調和という無益な試みに没頭したギリシア人注釈家と異なり、アヴェロエスは信頼に足るアリストテレス哲学の導き手だという主張である。
アヴェロエスの重要性が高まることによって、その学説の検証だけでなく、そのテキストの検討も進むこととなった。多くの翻訳が現れると同時に、16世紀後半にはアヴェロエスの本文が文献学の対象となった。
アヴェロエスを参照する自然哲学者の多くは、キリスト教の教義との調和を度外視して、アリストテレスの真意を確定しようとしていた。16世紀中盤ではたとえばSimone Porzioがアリストテレスの哲学にしたがえば霊魂は可滅的であるという結論を導きだした。同じような傾向性はパドヴァでの自然哲学者のあいだで広く見られる。また医学教育におけるアリストテレスの重要性が高まるにしたがって、同じように神学と医学・自然哲学を分ける人物が現れるようになった。
だが医者のうちには、アリストテレス主義者を激しく批判するカルダーノのような人物もいた。だがカルダーノの霊魂論はその根本においてポンポナッツィの見解に接近している。逆に同じく医師としてカルダーノを批判したスカリゲルは、アリストテレスとキリスト教の不一致を認めるあらゆる試みに頑強に提供したのであった。
以上からわかる通り、16世紀のイタリアには哲学がもつ神学的含意を考慮しない哲学者、医学者が大量に存在した。彼らに対する対応をせまられたカトリック教会は、あらたな哲学のあり方を模索することになる。