会計検査院の権限の意味 瀬畑『公文書問題』

公文書問題 日本の「闇」の核心 (集英社新書)

公文書問題 日本の「闇」の核心 (集英社新書)

  • 瀬畑源『公文書問題 日本の「闇」の核心』集英社新書、2018年、69–79ページ。

 会計検査院の果たすべき役割を、特定秘密の問題と関連づけて論じた論考を読む。会計検査院は内閣から独立の組織であり、日本国憲法によって国の決算を「すべて」「毎年」検査するものとされている(第90条第1項)。この規定は戦前の反省を踏まえたものだ。1889年に制定された会計検査院法では、会計検査院が検査できない領域が定められた。たとえば軍の機密費である。その後、軍関係の予算の検査はさらに困難になっていった。出兵に必要な物品の調達にかかる費用については、検査が必要ないとされたり、軍事機密の閲覧をたとえ許されたとしても、そこで得た情報を報告書で使うことはできないといった決まりがつくられた。さらに戦争にあたっては、細目なしで予算を軍に与え、戦後に会計を閉めてから検査するという仕組みができた。これらの制度があったからこそ、軍は検査院や議会の検査を経ずに、多くの予算を獲得し、自由に使用することができた。会計検査院の機能不全が、いわゆる軍部の暴走の一因だった。この反省を踏まえ、戦後は会計検査院が例外なく決算を毎年検査するという規定がつくられたわけである。

 とはいえ、会計検査院が厳密な検査を行えない領域が、現在でもあるという。たとえば内閣官房機密費、外務省機密費、警察庁機密費である。このような領域のひとつに特定秘密を組みこむことを内閣官房は探った。実際、特定秘密保護法の条文上は、決算の証拠書類に特定秘密が含まれていた場合、書類を会計検査院に提出しないことが許される書き方になっている。しかしこれは憲法の規定に反するのではないか。毎日新聞の報道など、紆余曲折を経て、最終的には書類の提供を拒むことは実務上は考えられないという回答が首相から引き出された。

 著者の主張は2点ある。第一に、条文が憲法と整合しないのは法律の不備なのだから改正すべきである。第二に、そのような不備を明るみにだし、それを補うような答弁を政府から引き出すにあたっては、報道の役割が極めて大きいということである(この件では、毎日新聞がその役割を果たした)。