アリストテレスの番犬

nikubeta2007-08-06


 id:Freitagさんに次の論文を送っていただきました。ありがとうございます

  • 「前衛的自然学者としてのアリストテレスの番犬:ユリウス・カエサル・スカリゲル」 Lüthy, Christoph. "An Aristotelian Watchdog as Avant-Garde Physicist: Julius Caesar Scaliger", The Monist 84 (2001), 542-61.

 初期近代に粒子論(原子論でもいいです)が提唱された原因を、これまでのようにルクレティウスの発見や機械論哲学に求めない立場が最近盛んになっています。たしかに機械論哲学は原子論の結果であって、原子論が生まれる原因にはならないんじゃないのか、というのはありますね。

 で、代替案としてもち出されているのが、北イタリアのパドヴァ大学を拠点としていたアリストテレス主義者たちです。彼らは医学と哲学の双方に適用可能な理論を構築しようとしていました。するとどうも中世以来の質料形相論ではうまくいかない。そこで再発見されたアレクサンドリアアフロディシアスによる注解を糸口に、アリストテレス『気象論』第4巻で展開されている粒子論的な物質論に注目が集まりました。ここに近代の粒子論の起源があるとLüthyたちは考えるわけです。

 このLüthy論文では、そのようなアリストテレス主義者たちの延長線上にスカリゲルを位置づけています。アリストテレス主義者でありながら、混交(mixtio)の議論に関して粒子論的な立場を取ったスカリゲルの議論が、アルプス以北で17世紀に盛んになる原子論者たちの議論の土台となったと論じています。