- 作者: 中山恒夫
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2007/08/28
- メディア: 単行本
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これは現在日本語で望みうる最高のラテン語の文法書だと思います。
全体は4つの部分に分かれます。
- 初級篇―形態論を中心に
- 中級篇―統語論を中心に
- 上級篇―講読
- 付録
初級文法が終わって講読に乗り出そうとする人にとっては特に中級篇が有益です。ここに書かれていることは同じ中山氏の『標準ラテン文法』に書かれていることの拡大版です。ええ、あの『標準ラテン文法』は小さいわりに多くの文法事項が詰め込まれています。だからあそこに書かれている文法事項をすべてマスターすれば、普通のラテン語を読むのに必要な文法知識のかなりの部分をカバーしたことになります。
ただいかんせん100頁強しかないので、記述が圧縮され分かりにくくなっていることは否めません。また例文も少なくなっています。そして何よりも使いにくいのは索引がついていないことです。使い慣れればどこに何が書かれているかを覚えてしまうので支障はありません。しかしそれまではどこに何が書かれているかを、あまり充実しているとはいえない目次から見つけないといけないので、かなりの手間になります。
『古典ラテン語文典』はこのような問題点をほぼすべてクリアーしています。具体的には
- 文法事項の説明が詳しく
- 例文が豊富で
- 充実した索引付き
になっています。
この他に特筆すべきなのは韻律の解説が付いていることです。これは『標準ラテン文法』では完全に省かれていました。
これまで日本語でラテン語の韻律について書かれたものというと、逸身喜一郎、『ギリシャ・ローマ文学―韻文の系譜―』しかありませんでした。中山氏の文法書によって、一冊の本で文法と韻律の両方がカバーされたのはとてもいいことだと思います。
もちろん『古典ラテン語文典』での韻律解説は完璧なものではありません。たとえ対象を古典期の韻文作品に限定してみたとしても、これを読めば韻文のすべてが楽しめるようになるわけではありません。たとえば喜劇の韻律は一切扱われていません。
でも必要最低限のことは書かれています。ホラティウスはともかくカトゥッルスを読む程度ならこの程度で十分…ではないかな?でもgalliambusなんていうカトゥッルス63歌でしか残っていない韻律を紹介しているところを見ると、かなり網羅的な紹介が行われているように思えます。とはいえ、韻律については私もよく分からないのであまり当てにしないでください(-_-;)。
とにかくですね、「まあヘクサメトロスとエレゲイアが読めればいいや」という人ならこの文法書に書かれていることで十分だと思います。
難点というか注意しないといけないのは、ラテン語の学習をこれからはじめる人にとってはこの本はあまり役に立たないということです。なにしろ練習問題がついていません。また、中級篇に書かれている文法事項は、実際に講読に入って具体的な構文解析をはじめてみないことには、どうしてこんなに細かい規則を覚えなければならないのかサッパリ分からないものばかりになっています。
というわけで、これからラテン語をはじめようとする人には同じ中山氏の『標準ラテン文法』から入ることをおすすめします。いや、あれだって練習問題に解答がついていないので一人でやるのは厳しいんですが…。
『古典ラテン語文典』の最大の難点。これはもう間違いなくその値段です。なにしろ税抜きで5600円します。高い。大学の授業の教科書としては使えない値段です。いや、そもそも初級で使うような本ではないんですが。
でも540頁という大きさと市場規模を考えるなら、この値段設定でも納得するしかないです。
とりあえずこんな感じです。とにかくラテン語中級者、つまり私を含めて多くのラテン語既習者にとって『古典ラテン語文典』は必携です。ええ、それこそ帯に書かれている「ラテン語学習者の永遠の好伴侶」という文句が誇張とは思えないほどに。
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