『西洋古典学研究』2010年 逸身、『ピンダロスの韻律』

 今年も『西洋古典学研究』が手元に届く時期になりました。残念ながら私は会員ではないので、図書館や人の研究室に押し掛けて閲覧させてもらうことになるのですけど。

 さあ肝心の中身で気になったのは、西村太良氏による逸身さんの本への書評です。書評の対象となっているのは次の一冊。

Pindaric Metre: The Other Half

Pindaric Metre: The Other Half

表題からも明らかな通り、ピンダロスの韻律についての著作です。彼の作品は韻律が比較的理解しやすい半分と、韻律が難解で専門家の間でも共通見解が形成されていないもう半分とに分かれています。この本はこの後者のグループに属する作品について「韻律的に可能な限り合理的で整合性のある解決を得」ることを目的としています。その結論として得られたのが書評によると

すなわち

1) スタンザを構成するverseを2つのカテゴリー(aeolic phraseとFree D/e)に、

また

2) スタンザ自体を3つのclass(I aeolic, II freer D/e or choriambic-cretic, III amalgamated)に分類し、それぞれの固有の特性によって分析してみよう

という提案である。

うーん、分からん。いや、まあなけなしの韻律学の知識を動員してみるとなんとなく分かる気がしないでもない?いや、やっぱり分からんか。

 とにかくこの要約からも分かる通り、この逸身さんの本は非常に専門的です。オックスフォード出版会が選んだ匿名の査読者からも「この秘教的な本」と言われたそうですし!

 とはいえこの本が現代の韻律学の到達点を示していることは間違いありません。この分野に関心がある人はぜひ図書館で手に取ってみてください。そしてできればこれからも韻律に関心を持つ古典語学者が現れますように。韻律についての深い理解がない人間は古典文献学者ではない。

 ところで逸身さんはこの他にも下記のような作品を発表していています。

  • "The 'Choriambic Dimeter' of Euripides," Classical Quarterly 32 (1982): 59-74.
  • "The Glyconic in Tragedy," Classical Quarterly 34 (1984): 66-82.
  • "Enoplian in Tragedy," Bulletin of the Institute of Classical Studies of the University of London 38 (1991-93): 242-61.
  • "What's in a Line? Papyrus Formats and Hephaestionic Formulate," in Hesperos: Studies in Ancient Greek Poetry Presented to M. L. West on His Seventieth Birthday (Oxford: Clarendon, 2007), 306-325.

 エウリピデス関係のものを集めた上で、まだ分析していないものを分析して一冊の本にできないのかな。