- 作者: ジョン・ヘンリー,東慎一郎
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2005/05/28
- メディア: 単行本
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授業でこの本を輪読しています。
本書の第4章では魔術的伝統について書かれています。ヘンリーが言うには、魔術的伝統の内部にあった一定の要素が新しい自然哲学に取り込まれていくことで、近代の自然科学が誕生したということになります。
しかしこの本を読んでも当のヘンリーが魔術、あるいは魔術的伝統という言葉で何を意味しているのかがよくわかりません。章の冒頭では魔術とは自然にある隠れた原因を操作して一定の目的を達成すること、というような定義が与えられています。これはいいとして、その後議論が魔術そのものから魔術的伝統に微妙にシフトします。するとこの魔術的伝統には、ケプラーが惑星の運行を説明するために用いた正多面体の議論や、彼が惑星軌道と音の調和のあいだに見出した対応関係までもが含まれることになります。さらには磁石は伝統的に魔術的物体の筆頭であったから、地球が霊魂を持つ巨大な磁石と考えたギルバートの思想も魔術的な伝統に立つことになると主張されます。
ここまで魔術的伝統という言葉にいろいろ入れてしまうならば、もはや世界に何らかの超自然的な秩序を認めるような思考方法はすべて魔術的といわざるを得なくなります。すると結果として、17世紀においてはトマス・ホッブズ以外の人物はほとんど魔術的伝統の内部で活動していたことになってしまいそうです(デカルトも例外ではなくなってしまう気がする)。
この歴史的な裏づけのない曖昧な魔術概念の使用は、ヘンリーが一次資料は読まずにコーペンヘイヴァーやイーモンあたりの二次文献にそのまま依拠していることから来ていそうです。この『17世紀革命』は日本語で読める16、17自然哲学の概説書としては最も優れたものだとは思いますけど、こういう点に弱点がありそうです。あとあまりのイングランド中心史観もどうかと思いますけど、これは機会があれば。