ポンポナッツィにおける必然的で最善の世界 Kessler, Die Philosophie der Renaissance

Die Philosophie der Renaissance: Das 15. Jahrhundert

Die Philosophie der Renaissance: Das 15. Jahrhundert

  • Eckhard Kessler, Die Philosophie der Renaissance (Munich: Beck, 2008), 171–78.

 ルネサンス哲学の概説書からポンポナッツィを扱った部分を読みました。ポンポナッツィはヴェルニアの弟子という点でニフォと立場を同じくしていました。この2人はともにフィレンツェにおけるプラトン主義の復興や、古代末期の新プラトン主義的なアリストテレス註釈書の翻訳がもたらした新しい知的状況に鋭く反応したという点でも同じです。しかし二人の哲学思想は大きく異なっており、これは第五回ラテラノ公会議での決定とその後の帰趨に現れます。会議では霊魂の不死性を可能なかぎり理性をもって証明すべしとの命が下りました(1513年)。ニフォの新プラトン主義的哲学観にお墨付きを与えるこのような決定にひるむことなく、ポンポナッツィは1516年に『霊魂の不死性について』を発表します。そこで彼は霊魂の不死性は理性によっては証明できず、むしろ理性はその可死性を支持すると論じたのです。この立場は一見完全に反教会的なものに見えます。しかしポンポナッツィの擁護者にドミニコ会のボスであるヴィオのトマス(Thomas de Vio)のような人物がいたことは、彼の立論が単なる反動を志向したものではなく、むしろアリストテレスの哲学の新しい方向性を示したものであったことを示しています。

 その方向性はオカルト質に依拠した説明(ニフォの悪魔論がその典型)を拒否することから生まれました。説明しがたい現象に行き当たったときに悪魔なり魔術なりを持ち出すのではなく、あくまでも自然現象の究極的原因は場所的運動にあるのだという原則を保持しようというのです。自然哲学はもっぱら場所的運動に基礎を置く自然的事象に関わる経験的学問という点で、形而上学や神学からは独立した自律的なものとされねばなりません。この立場を徹底したのが死後出版された『呪文について』でした。そこでポンポナッツィは磁石の作用、(奇跡のようにみえる)治癒行為、幽霊の目撃といったオカルト的に説明される典型的な事象を取り上げて、それらが場所運動によって引き起こされると主張します。彼によれば、神ですらも世界に直接的に働きかけることはできません。惑星による場所的運動を通してはじめて被造物に働きかけられるのです。この惑星運動が続いてその下にあるすべてを統御することになります。すべてが因果の連鎖によって結ばれている以上、ある現象が理不尽に思えたり不思議に思えたりするのは、すべて人間の側の認識能力の不足を意味するに過ぎません。世界は常に必然的な運行に従い、最善のあり方を実現させているのです。