天使学の隆盛 Keck, Angels and Angelology, ch. 4

Angels and Angelology in the Middle Ages

Angels and Angelology in the Middle Ages

  • David Keck, Angels and Angelology in the Middle Ages (Oxford: Oxford University Press, 1998), 75-92.

 12世紀以降の天使学の隆盛をもたらした要因を分析した議論のメモをとりました。

 天使について考察することは12世以降知的野心をもつ者たちにとって避けて通ることのできない課題となった。天使学の繁栄はいくつかの要因によってもたらされた。まず教育の中心地が修道院から大学へと移行したことが挙げられる。第二回ラテラン公会議は修道士の義務は祈ることであると定め、市民法と医学を学ぶ修道士たちを非難した。修道士に求められるのは現世利益のために論理的推論力を身につけることではなく、有徳な行為を行うことだとされた。対して大学教育ではプロ・コントラの論法を用いてあらゆる問題について強力な議論を展開できることが高く評価された。この評価システムは新たに勃興した都市層の要求にこたえるものであった。商人や法律家たちは論理的推論する能力を鍛える教育プログラムを期待していた。したがって教育の中心地が変わることにより、議論の方法も変化した。

 これらの一般的知的環境の変化とともに、2人の人物による著作が天使学の発展に不可欠であった。第一にペトルス・ロンバルドゥスの『命題集』が神学の標準的教科書として用いられるようになった。同書の第2巻では天使についての一連の問いが立てられていた。このことは天使についての探究を知識人にとって避けて通れないものとすると同時に、以後の発展で問われることになる問題領域を規定することになった。第二にアリストテレスの著作がラテン語に翻訳された。彼の提供するさまざまな分析ツールは、彼の著作への注釈者たちが加えた釈義群とともに、大学教育に取り込まれることとなった。結果としてロンバルドゥスが立てた天使に関する問いは、アリストテレスの解釈枠組みの中で解答されることとになった。以上のような宗教制度的、社会的、そして知的土壌から、中世の天使学は生まれ数世紀に渡って繁栄することになった。