アリストテレスと政治的生活 稲村「市民的共和主義における政治哲学の基礎づけ」

思想 2011年 11月号 [雑誌]

思想 2011年 11月号 [雑誌]

  • 稲村一隆「市民的共和主義における政治哲学の基礎づけ:アリストテレスホッブズの対比を通じて」『思想』No. 1051、2011年11月、29–50頁.

 ポリスの存在やそこで施工されている法律が人間の本性にかなったものとなりうるというアリストテレスの立場が、共和主義をめぐる今日の理論形成にも大きく貢献する可能性があることを示そうとする論考です。ここでは前半のアリストテレス解釈をめぐるところだけを紹介します。

 人間はポリス的動物であると主張したときにアリストテレスが念頭においていたのは、ポリスや法律といったものは人為的な慣習にすぎず、社会的弱者が生存するために考案された制度であり、強者にとっては制約にしかならないのではないかという当時の寡頭派の主張でした。これに対して彼は政治的生活というのは人間の自然に即したものだという立場に立ちます。彼の理解では、あるものの自然というのはその目的のことであり、それはそのものに固有の機能が発揮できている状態であるとされます。人間は言葉を操って正と不正、善と悪の理解を共有することができるという固有の機能を持っており、この機能が発揮されることでポリスのような共同体が形成されます。このためポリスというのは人間にとって自然であり、その結果人間はポリス的動物であるとされます。またアリストテレスは徳を身につけることを非常に重要視していました。徳は社会の秩序によって与えられ、さらにそれらの徳は社会という場で発揮されるため、アリストテレスが考える善い生活にとって政治的共同体というのは不可欠であったということになります。

 アリストテレス研究としての新規性は、ポリス的動物という有名な学説を当時寡頭派が抱いていた疑念への応答としてとらえるというところになるでしょうか。明晰な論述に感動する一方で、どのあたりに独自性があるのかが私にはうまくつかめなかったことも事実です。