グローバル・ヒストリーにおける伝染モデル クロスリー『グローバル・ヒストリーとは何か』#3
- 作者: パミラ・カイル・クロスリー,佐藤彰一
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発散とも収斂とも異なるもうひとつの人類史のモデルは、伝染に基づくものです。ジンサー『ネズミ・シラミ・文明』、クロスビー『ヨーロッパ帝国主義の謎』、マクニール『疫病と世界史』といった諸研究は感染症が歴史の帰趨を大きく左右してきたことを主張しました。たとえば15世紀末にヨーロッパから人々が大挙してアメリカ大陸に渡ったときに交換された各種伝染病と、それがヨーロッパとアメリカの双方にもたらしたインパクトに関心があつまりました。マクニールはさらに、単にウィルスとその宿主という生物学的関係にだけでなく、支配側と植民地側をも感染者と宿主ととらえることで、特定の段階に収斂することがないものの、グローバルに適用できる説明モデルを提示しようとしました。クロスビーやマクニールの研究は人口規模と密度が高い欧州の住人がたとえばアメリカの先住民に対して疫学的に優位に立っていたと想定していました。これに対し、シェルロン・ワッツは、ヨーロッパ人はユダヤ人をゲットーに隔離するという伝統を有していたため、黒死病や天然痘に襲われたさいに患者を隔離するという適切な対策をとることができたと主張しました。しかし逆に感染力が弱いハンセン病にたいしても同種の隔離政策を実施するという過ちをおかしました。ワッツの議論には異議がとなえられているものの、生物学的に説明されていた疫病克服を、文化的・社会的・政治的に説明する試みは評価する必要があります。ジャレッド・ダイヤモンドの『銃・病原菌・鉄』は、大陸の地理的・環境的要因がユーラシア大陸の優位と、アフリカ、アメリカ大陸の劣位を決定づけたと論じました(その中では疫学的優位に大きな意味が与えられる)。ダイヤモンドの立論は説得力があるとは言いがたく、たとえば大陸が南北に長いことは技術移転と発展に不利にはたらくという彼のテーゼは、南北での人口移動が圧倒的に多かったアメリカ大陸で中世に農耕がきわめて高度に発達していたことを説明できません。しかも彼の問題の立て方は、ヨーロッパによる19世紀、20世紀のグローバルな支配から出発したきわめてヨーロッパ中心的なものであるとの批判がなされています。
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